第9回 増田 和子さん

表具師、1級表装技能士 京都府在住
第9回は1985年教育学部卒業後、現在は京都で「増田寰和(かんわ)堂」を開業し、「表具師」をされている増田さんにご寄稿頂きました。

国内はもとより、世界中で活躍している本学卒業生の近況をお知らせします。

「表具師」という仕事

私は京都市北区で表具師として掛け軸や屏風を作っています。大学卒業後会社勤めを経て弟子入りし、8年間修業2年間職人として働いた後、増田寰和(かんわ)堂を開業しました。ものを直す仕事がしたくてこの道に入りました。高校時代に洋書を修理する方の記事を読み、「直す」と言うことは、これまで大切にされてきた品を次の時代に残していくと同時に、その品を受け継いできた人々の気持ちも伝えることだと感じ、ずっと心に残っていました。親がこの様なことをしている訳でもなく全く畑違いの仕事でしたが、私の性に合っていたと思います。


作業道具

「ものを直す仕事は他の分野にもあるが、どうして表具師なのか」と尋ねられることがあります。そう言われて振り返ってみると、目に留めた記事が紙を扱うものでなかったら、直す仕事は難しく自分には縁のないこととして終わっていた気がします。紙を扱うことは根拠も無いのに出来る感じがありました。実際、修業に入るには遅すぎると思われる年齢からのスタートでしたが、何の苦もなく習得することが出来ました。自分の得手・不得手というのは無意識のうちに分かっているのかなと思います。

京都という街、表具師としての願い

横浜の新興住宅地で生まれ育った私が、縁あってこの地で暮らしを立てるようになってみて、「公の」日本文化はここで培われてきたと肌で感じます。平安時代の文学に表われる事柄、お茶の炉開きの時期等々。確かにこの土地の風土・季節感から生まれていると実感します。


雪で浮かび上がった舟形

表具師が作る掛け軸や屏風は今の暮らしでは必要とされない道具になりつつあります。でも、掛け軸を掛け替えることで季節感を部屋に取り入れたり、その場の雰囲気を作り出したりすることや、屏風を置くことで家の中に公私の境を設けたりする感覚や習慣は今の暮らしにも有っていいものではないでしょうか。「もったいない」という感覚が他国の人の心を捉えたように、これまで受け継がれてきた「気持ち」が伝わり続けて欲しいと思います。

学生時代の恩師にはせる思い

「ものを直す仕事」に魅力は感じましたがそれは「憧れ」です。女性がずっと仕事を続けられる条件が整っている職として教師を志し、横浜で小学校の先生になるには伝統のある横国大教育学部と思い選びました。

こうして始まった私の学生生活は、教育学部生と言うよりも弓道部員でした。弓を引くゆったりした動作を、毎日練習している内に筋肉をどう使っているか感じとれるようになり、そのうち人が歩くのを見てもどの筋肉を多く使っているか分かるようになりました。「それがおもしろいのだ。」と、練習着のまま足袋にサンダル履きで出席したゼミで私が話すのを、担当教官の久木幸男先生(日本教育史)はニコニコと聞いていらっしゃいました。そんな先生から感じたのは「この事は本当に確かか。」という厳しく真摯な研究姿勢でした。突き詰めるほど「わからないこと」が見つかりさらに調べるという繰り返しであったのだろうと不勉強な学生であった者は想像するばかりです。今から思えば、博識であった「学問のプロ」にもっと教えを請い、その人柄に触れておけばよかったと悔やまれてなりません。

一風変わった道を歩んでいる先輩から後輩へ

横国大卒業生として、「表具師」という一風変わった道を歩んでいる者が感じていること。

  1. 五感を使って物事に接する
    もの作りの修業では「よく観ろ」といいます。確かに、言葉で伝えられるのは実際に必要な情報の2、3割くらいと感じます。効率よくきれいに作るための姿勢、力加減等は、注意深く人の作業を見たり、そこで生じる音を聴いたりすることで体得されます。作業の注意点は言えますが、逆に言葉にするとそこに捉われ他の大切なことを見落とすことになったりもします。五感を使い、体を動かして物事に接することで、言葉にはできないものにも気づく「学び(真似び)」があると思います。その上で、先人が言葉に出来なかったことを自分の言葉として表現することが「創造」「独創」に繋がっていくのではないでしょうか。
  2. 何でも役に立つ
    自分で経験し身に付けてきたことは、一見繋がりのなさそうなことでも「体の中で結びつく」とでも表現したいくらいにとても大切な時に一体となり、自分の判断・発想や行動の役に立ってくれます。たとえ人から与えられた課題で自分の興味の範囲ではなくとも、きちんとやっておけば必ず生きてきます。無駄なことなどひとつもありません。どうぞ、いろいろなことを「真剣に」やってみてください。

(担当:総務部 広報・渉外課)


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