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海外へ行った研究者から

平成15年度文部科学省在外研究員制度 実施報告
第2段階を迎えたドイツの大学発ベンチャー
環境情報研究院教授 近藤 正幸

このたび文部科学省の在外研究員として2003年の6月から2ヶ月間、ドイツのカールスルーエにあるフラウンホーファー協会のシステム技術・革新研究所(FhG-ISI)において客員研究員として、大学発ベンチャー及び研究評価・技術政策評価に関する調査研究を行う機会を得た。

カールスルーエはフランクフルト空港からICE(InterCity Express、ドイツの新幹線)で1時間ほどの人口が約28万人の中規模都市である。城を中心にして城の近くは放射状に道ができていてどの道からも城が見える。元々はバーデンの州都であったがバーデン・ビュルテンブルグ州となりシュツットガルトが州都となったため最高裁判所がカールスルーエに誘致された。この地域はフライブルグと並んでドイツでも最も暑い地域であるが2003年は特にひどく、ドイツの気象観測史上最高の38度を記録した。通常の夏はそう暑くないのでオフィスはもちろん、窓がほとんど開かない全面ガラス窓の路面電車もエアコンはないので、通勤の路面電車はさながらサウナのようであった。

カールスルーエは欧州統計局により欧州第2位のハイテク都市にランクされている。情報関係の学科がカールスルーエ大学にドイツではいち早く設立されたこともあり情報関係のベンチャーが盛んである。環境関係では、路面電車と鉄道が乗り入れをして公共交通の利便性を高めマイカーの利用を減らし環境保護に貢献していることでも有名である。 カールスルーエはドイツ教育研究省(BMBF)における「大学からの起業」の政策であるEXISTプログラムの5つのモデル地域の1つでもある。同地域のEXISTプログラムの推進機関であるKEIM(ドイツ語で芽生えを意味する)が中心となって「大学からの起業」の文化作りと地域の支援ネットワーク作りを行っている。

滞在先であるドイツのフラウンホーファー協会のシステム技術・革新研究所(FhG-ISI)は、ドイツ教育研究省(BMBF)における「大学からの起業」の政策であるEXISTプログラムのモニターを教育研究省から委託を受けて実施している機関であるため、EXISTプログラムの進捗状況についてKoschatzky部長や他の研究者と情報交換・意見交換を行うとともに資料収集を行った。その結果、EXISTプログラムのモデル地域に指定された5地域において開始時点から2002年の12月までに644のベンチャー企業が誕生し、倒産又は自主解散に至ったベンチャー企業はわずか72であることが分かった。他の研究機関の調査によると、ドイツ全体では2000年に大学や公的研究機関の技術成果を元にして起業したベンチャー企業は3,000社以上に上る。大学からの技術成果を元にして起業したベンチャー企業数のみを推計してみると2,780社になる。日本の大学からの技術/人材/資金を元にした起業数は2000年は100件であり、アメリカの大学からのライセンシングを元にした起業数は2000年は368件であったことを考えると如何に多いかが分かる。

こうしたEXISTプログラムは第2段階を迎え、従来の5地域に加え新たに10地域がEXIST-TRANSFER地域として追加された。EXIST-TRANSFERは実施されてから1年も経っていないがすでに68のベンチャー企業が設立されており、着実に成果が現れ出していることが分かった。

他方、ベンチャー企業の成長についてはベンチャーの上場に適した株式市場であるノイアマルクトが消滅したことが大きなマイナス原因となっている。ベンチャー企業の成長についてはベンチャー・キャピタルからの出資が重要であるが、ノイアマルクトが2003年6月5日に消滅したということはベンチャー・キャピタルにとってEXIT(出口)戦略の幅が狭くなったことになる。ベンチャー・キャピタルが投資をしにくくなったということは、ベンチャー企業にとっては投資を受けにくくなったことを意味する。

このように、今回の在外研究により最近のドイツの大学発ベンチャー事情を肌で感じることができた。また、ドイツの研究者とも親交を深めることができた。今後とも日本の大学発ベンチャーと比較しつつドイツの大学発ベンチャーを研究していく上で有意義な時間を過ごすことができた。

(こんどう まさゆき 環境情報研究院教授)

平成14年度文部科学省在外研究員制度 実施報告
WHUでの在外研究を振り返って
経営学部助教授 二神 枝保


Albach教授ご夫妻と著者
-ボンのご自宅にて-

私は、2002年9月1日から10ヶ月間、文部科学省在外研究の機会を与えられ、ドイツのコブレンツ(Koblenz)の近郊に所在するWHU(Wissenschaftliche Hochschule für Unternehmensführung)で客員教授として在外研究の日々を過ごしました。

コブレンツは、ライン川とモーゼル川が合流する地にあり、ローマ時代からの要塞の残るとても美しい街です。私の住んでいた家の近くからもライン川とモーゼル川の合流点ドイチェス・エック(Deutsches Eck)が見え、川をゆっくり行き交う船を眺めていたものでした。

WHUでの指導教授のHorst Albach先生は、ヨーロッパの経営学の第1人者であり、ドイツ5賢人会のメンバーでもあります。また、ドイツ学術会議会員、ドイツ経済省経済専門家諮問委員等も務められています。私がまだ大学院生だった頃、Albach先生の著書"Zerrissene Netze: Eine Netzwerkanalyse des ostdeutschen Transformationsprozesses"(『ドイツ統合と企業移行戦略』)を日本語に訳したことがあり、以来Albach先生には10年近く研究のご助言をして頂いていました。Albach先生の「WHUで研究を」という長年の勧めもあり、今回の在外研究は私にとって感慨深いものでした。Albach先生は、非常に多忙な方であるにもかかわらず、私が納得するまで根気強く理論や考え方を長時間にわたって議論して下さいました。こうした指導の時間は、私にとっては身の引き締まる思いの時間であると同時に、自分では思いつかないようなアイディアを示唆して頂けることで感激する瞬間でもありました。また、私をしばしばボンのご自宅にまで招いて下さって、奥様のRenate Albach博士手作りのアップルケーキを振舞って下さったりと公私ともに温かく親身になってご指導して下さいました。こうしたAlbach先生の優しさは、私にとっては生涯忘れられないほど感動するものでしたし、研究・教育の本質を少しでも学ぶことができた気がします。


Brockhoff学長と著者
-学長室にて-

WHUの学長のBrockhoff教授とは以前経営学会国際連合(IFSAM)でお目にかかったこともあり、お会いする度に励ましや温かいお言葉を掛けて頂きました。WHUの建物は、中世の伯爵の家を一部改造しており、Brockhoff教授の学長室はゲーテが立寄った由緒ある部屋とされています。また、学生食堂も当時のワイン貯蔵庫(Weinkeller)をそのままに使っています。伝統と最先端のコンピューターが共存する空間で、活気ある学生たちが経営学を学んでいます。

私の研究室は、とても快適な広い個人部室で、大きな窓からは古い街並みが一望でき、朝早くにパン屋さんの煙突から立ち上る白い煙が印象的でした。ドイツの朝は早く、朝7時には街は動き出します。

私の専門は人的資源管理(HRM)ですが、とくに研究テーマは、ドイツ化学産業における解雇( Kündigung)の問題を考察しました。最近ドイツの化学メーカーでは、スリム化(Verschlankung)を実施しています。BayerやBASFのようなドイツの主要企業でも大幅な人員削減を行っています。私は、こうしたテーマに関して2つのアプローチから研究を行いました。1つめのアプローチとして、Albach先生が作成したBonn Databaseを用いて統計的分析を行い、化学産業全体の人件費、売上費、付加価値などの推移を検討し、その概要を考察しました。Bonn Databaseは、1967年から1997年までの295のドイツ企業の財務諸表に基いて作成されたデータベースです。一部のデータに関しては日本企業のそれと比較し、有意な差があることも検討できました。また、2つめのアプローチとして、自分の作成した質問項目に基いてドイツ企業の人事担当者を対象にインタヴューを行い、ケース・スタディとしてまとめました。インタヴューの実施については、ドイツの人的資源管理論の第1人者であるMannheim大学のGaugler教授より親切なご指導を賜り、ドイツの企業や機関を紹介して頂きました。したがって、BASFやRocheなどの企業のみならず、ベルリンのBDA(Bundesvereinigung der Deutschen Arbeitgeberverbande)やカッセルのAGP(Arbeitsgemeinschaft Partnerschaft in der Wirtschaft)などの経営者団体の機関の協力も得てインタヴューを行うこともできました。


Rudolf教授ほか若い研究者たちと著者
-著者の研究室にて-

ドイツには解雇制限法(Kündigungsschutzgesetz)があり、大企業は基本的に従業員を解雇することが禁じられています。しかしながら、今日ではドイツの多くの企業は厳しい経済状況の中で、リストラクチャリングをせざる得ないことにもなっています。中小企業を中心にフレキシビリティを高めようという動きがあり、解雇制限法の規制緩和の動きがみられているのです。EU統合、グローバル化の進展の中で、アメリカ的なHRMの考え方が重要視される一方で、従来のドイツ的な人事・組織のあり方、例えば経営協議会(Betriebsrat)や共同決定(Mitbestimmung)も依然として強い効力をもっています。解雇の問題は、こうした従来のドイツ的な人事・組織のあり方に大きく関わってくる領域でもあり、とても注目される動向でもあるので、今後も研究を継続したいと思っています。

私がWHUで素晴らしいと感じたことのひとつは、若い研究者たちとの友情・交流でした。主任教授のRudolf先生や秘書のMarianne、講師のKarlや助手のMatthiasたちとは毎日学生食堂(Mensa)や大学近くの気の利いたイタリアンレストランに昼食を一緒に食べに行き、彼らと雑談することが楽しみでした。彼らの朝早くから夜遅くまで持続する研究への集中力には驚かされましたが、どんなに忙しくてもユーモアを忘れないことにも感心しました。朝私が7時半頃研究室に行っても、たいてい誰かが先に来ていてコーヒーを用意していました。ユーモアを交えての1杯のコーヒーから、まず1日の研究が始まるのです。夜は温かいワイン(Feuerzangenbowle)を作って飲んだり、おいしいアスパラガスが手に入ったからと白いアスパラガス(Weis Spargel)を食べる会を開いたり、時には誰かの家でパーティーを開いて夜遅くまでいろんな話を語り合いました。彼らのおかげでいつも笑ってばかりで、淋しいと感じる暇はありませんでした。私の人生の中の輝くような一齣であったと思います。


ネクタイを切る著者
-WHUにて-

WHUでは季節ごとに様々なイベントがあります。クリスマスの頃には、玄関のもみの木に可愛らしい飾り付けがされ、教員とスタッフによるパーティーが開かれます。春のカーニバルの日にはスタッフが普段自分がなりたいと思っている姿に仮装して、お菓子が振舞われます。カーニバルの初めの1日だけ女性が男性のネクタイをはさみで切ってしまういたずらも許されます。ドイツでは長い冬が終わると、人々は春の訪れをこのように楽しむのです。

 

住居は、WHUの近くの小高い丘の上の住宅街にあり、庭先のバラが美しいかわいい家の3階を借りていました。大家さんは2階に住んでいましたが、とても親切な夫婦で、休日にはモーゼル川やローレライまでドライブに連れて行ってくれたり、一緒に庭のぶどうのジャムを作ったり、買物に行ったりと本当の娘のように可愛がってもらいました。ですから、私が日本に帰る時にはお互い泣いてしまい、別れるのがとても辛かったのを覚えています。生まれて初めてドイツ人のペースで生活することを経験したわけですが、生活してみて初めてドイツ人のものの考え方や価値観、文化がよく分かり、今後の人生にとっても本当に良い経験になったと思います。

10ヶ月のWHUでの在外研究を振り返ってコブレンツの美しい風景とともに思い出されるのは、Albach教授の温かいご指導やBrockhoff学長の励まし、Gaugler教授の優しいご助言、WHUの若い研究者たちとの友情、インタヴューやデータ収集に協力してくれた企業の人事担当者の深い理解、そして大家さんの親切な心配りであったりします。そして、私はこうした人々に本当に支えられて健康で充実した研究生活を送ることができたのだと思います。また、私は文部科学省の在外研究の機会に恵まれたこと、留守中横浜国立大学経営学部の先生やスタッフの方にお世話になったことを心から感謝し、私の貴重な経験をこれからの研究と教育活動に還元して参りたいと存じます。

(ふたがみ しほ 経営学部助教授)

平成14年度文部科学省在外研究員制度 実施報告
教育改革の光と影と伝統と ~ケンブリッジ滞在記
教育人間科学部 助教授 堀内 かおる


写真(1) ケム川でのパンティング
(ボートのり)


写真(2) キングス・カレッジの前で

2002年10月1日~11月30日の2ヶ月間、私は英国ケンブリッジ大学教育学部の客員研究員として、在外研究を行う機会を得た。

ケンブリッジはロンドンから列車で約50分ほどのところで、中世にタイムスリップしたかのような静かなたたずまいの大学の街である。郊外には羊や牛がのどかに草を食む牧草地が広がり、街を取り巻くように流れるケム川と周囲の緑の並木は、この街の穏やかな落ち着きを醸し出している(写真(1))。しかし歴史をたどれば、かつてオリバー・クロムウェルが学び、ピューリタン革命の拠点として一世を風靡した革新的な街でもあった。1441年に、ヘンリー6世によって創設されたキングス・カレッジは、いまや観光名所として、その壮大なたたずまいを見せている(写真(2))

ケンブリッジ大学からは、国内外で活躍した多くの優れた科学者・教育者・政治家等が輩出されており、米国ハーバード大学の創始者であるジョン・ハーバードも、ケンブリッジ大学のエマニュエル・カレッジの卒業生である。ケンブリッジ大学の学生たちは、みないずれかのカレッジに所属し、寄宿生活を送っている。各カレッジは、それぞれ専門性に特色を持っている。教育学を専門分野とし、教員養成の機能も併せ持っているカレッジが、ホマートン・カレッジである。ホマートン・カレッジは、街の中心部から約30分ほどのところに位置し、他のカレッジと比べればこじんまりとしてはいるものの、随所に歴史を感じさせる、レンガ造りの落ち着いた雰囲気の建物である(写真(3))。私は教育学部のリサーチ・ディレクターであるジーン・ラダック教授のもとで、教授の研究室のあるトランピントン・ハウス(という名の、古い洋館ふうの2階建ての研究棟)の一室を与えられ、研修を開始した。教育学部のリサーチ部門では、政府や自治体をはじめとするさまざまな機関からの助成を得て、イングランド全域にわたる教育調査を実施し、成果を世に問うてきている(写真(4))。


写真(3) ホマートン・カレッジ

写真(4) リサーチ部門が取り組んだ
調査研究の成果に関する新聞報道等の掲示

滞在中の研究課題は、「非法制化された領域」として英国のナショナル・カリキュラムに新たに導入されたPSHE(Personal, Social and Health Education)の実情を調査することであった。ジェンダーや民族の差異に配慮した人格的・社会的発達を促す教育であるPSHEが英国で注目されるようになった背景と教育の実態を明らかにすることを通して、ジェンダーをはじめとする人権教育に留意したカリキュラム開発や教員養成に関する、日本の教育への示唆を得たいと考えていた。研究活動にかかわって紹介すべきことは多いが、ここでは現地の初等学校(primary school)の印象について、記すことにしたい。

授業観察と教師へのインタビューを目的として訪問したA校は、学区内で最も評判の高い学校であった。教師たちは自信にあふれ、学校全体が開放的でとても明るい。子どもたちも、この学校の生徒であることに喜びを感じているかのような印象であった。しかし、同日に訪問した同じ学区内のB校では、なぜか覇気が感じられず、子どもの数も少ないような印象を受けた。後で関係者に聞いた話によると、B校は、もっぱら生徒をA校にとられてしまっているような状況だそうで、悪い学校ではないのにあまり振るわない、とのこと。学校選択の自由化はイングランドで大きな問題になっているということであった。親たちは評判のよい学校に子どもを通わせたがり、親の評判が高まることで学校自体もより改善され教師も自信を持つようになる。まさにプラスの相互作用が働いて、またさらに学校の評判が高まるというわけだ。A校は、理解ある親に支えられた地域の誇る学校、という位置を得ている。それが、B校や、この学区にあるもう一つの学校(この学区内の初等学校は3校ある)は、まさにその反対で、実際に悪い学校ではないのに、注目されず、望まれていないが故に、何となく寂しげで、さびれたような雰囲気がある。教師の採用は校長と学校のガバナーに任せられているということもあって、これもまた、評判のいい学校に評判のよい教師が集まる、ということにもなろう。イギリスの教育自由化の光と影の側面を垣間見たような気がした。このような状況が蓄積されていくと、マイナスの連鎖がたまってしまった学校は、立ち直れなくなって淘汰されていくのだろう。

私がインタビューをした11月に、C校の副校長は2003年1月に、他の学校へ校長となって異動することが決まっていた。優れた教育実践と学校運営でその名を知らしめていたC校の教師たちの元締めとして、絶大な信頼を得てきたこの副校長は、今度の異動について、「大きなチャレンジである」と私に語った。新しく行くことになっている学校は、子どもの荒れが顕著で、校内でさまざまな問題行動が起きていて、教師たちは無力感から教育に対する意欲を失ってしまっているという。   「今の学校(C校)では、すべてがうまくいっているから、もう何も変革することがない。私は、新しい可能性にかけてみたい」と、彼女は校長に就任する抱負を語ってくれた。

彼女は、ラダック教授の研究チームの協力者でもあり、何かあればケンブリッジ大学へ出向き、教授たちの研究プロジェクトにかかわることを通して、自分たちの学校をよりよい方向に変えて行くヒントを得ていた。

イギリスでは、教師は公務員待遇ではなく、賃金も低くハードワークのために、教師のなり手がない、という事態が深刻化している。教師になりたいのに、募集が少なくなかなかなれない、という日本の状況との差は大きいけれども、教師の仕事の多さ・抱えている責任の重さは、両国とも変わらないだろう。

現場で奮闘する教師に対し、教員養成や現職教育にかかわる学部のスタッフとして何をなすべきなのか、という問いに対する、ひとつの答えがケンブリッジにはあった。ラダック教授たちの掲げていた理念である、子どもの立場から学校改革をとらえなおす、という視点を忘れずに、日本の、これからの教育について考えていきたいと思っている。

(ほりうち かおる 教育人間科学部助教授)

平成12年度横浜国立大学国際交流基金教員派遣事業報告
出張概要および出張効果
大学院国際社会科学研究科 教授 久留島 隆


清華大学法学院の
戦憲斌教授と研究室で
専門領域
商法
講義科目
企業活動とコーポレート・ガバナンス、企業取引と法、企業組織と法、企業の情報開示と法
派遣先国
中華人民共和国(以下、「中国」と略称)
派遣目的
中国のWTO加盟の準備と企業組織再編法制の状況に関する調査
派遣期間
平成13年3月8日から同月25日までの18日間

出張概要及び出張効果

出張概要

中国は、現在、WTO加盟の準備を進めているところである。WTO加盟が実現すると、日米欧の企業が中国市場に進出することになり、中国企業との競争をすることになる。現在の中国企業の状況では、この競争については大変厳しい環境にあることは明らかであるので、法的な面でも、日米欧の企業と肩を並べることが不可欠である。

そこで、中国の国家経済貿易委員会と日本の通商産業省との共同事業が、平成12年1月から開始された。市場経済システムとの調和がさらに必要になっている会社法について、改正作業を担当している中国国家経済貿易委員会との間で、日本および中国の会社法に関する共同研究会を行っているところであり、平成12年1月と平成13年2月に、北京において、それぞれ企業組織の再編法制に関するセミナーとワークショップが開催され、日本側の1員としていずれにも参加する機会を得た。我が国と中国政府との間で、関係省庁(国家経済貿易委員会等)や学識経験者(社会科学院、清華大学、政法大学等)等を対象にして開催されたワークショップにおいて、両国の経済制度改革の必要性に対する理解の深化や現地関係者と我が国関係者との交流を深めることに、その目的があった。

特に、本年2月11日より実施された『日本・中国会社法』国際ワークショップに参加し、【企業組織の再編】についての講演・質疑応答の成果を踏まえて、さらに、関係当事者を拡大し、詳細な調査をすることにその出張目的がある。

すなわち、この2回の共同事業に参加して得られた質疑応答および意見交換等の成果を前提にして、中国の企業関係者、主として、中小企業経営者の経営意識と法的認識に関する情報収集が研究の内容である。その理由は、平成12年のセミナーでは、中国側の官僚の考え方等を知ることができ、平成13年のワークショップでは、中国の大企業の経営の在り方に関する情報を得ることができたけれども、中小企業に関する状況については知ることができなかったことにある。

本出張と本務との関係という点では、本出張は、私の研究対象である「企業組織と活動に関する法制度に関する研究」の一部分として、全く重なるもので、関係者に対して、これまでの研究上の成果を披瀝できると共に、今後の中国企業法制の在り方に関する情報を的確に入手でき、関係者との交流により、研究の幅が広がることを期待できる。

出張効果

  1. 一般的効果
    日本においても、最近、企業の組織再編に関する商法改正が行われていることもあり、今回の研究で得られた多くの情報を活用することにより、中国の企業組織再編法制との比較研究が可能になるという一般的かつ継続的効果が期待できる。
    今回の出張は、WTO加盟を控えた中華人民共和国における会社法と実務との関係を、換言すれば、会社法が如何に中小企業の経営活動に機能しているかという課題について、主として、中小企業経営者からヒアリングすることに目的を置いた。そこで、北京、大連および天津等の都市で、化学・衣料・薬品等の事業を意欲的に経営し、輸出活動をしている関係者に接触した結果、彼らの多くが資本主義社会の企業経営者に比較しても、充分に耐えられる企業の営利性についての思想が定着していることが明確になったばかりでなく、大企業や中央の官庁からは得られない企業経営に関する会社法と実務の諸事情を把握することができた。今後の研究活動に充分に活用することができるものと確信している。
  2. 具体的効果
    具体的な面では、まず、第一に、帰国直前の23日(木)には、清華大学法学院(平成12年4月に学術交流協定を締結)において、「外部監査役の法理論と実践」というテーマで、法学院長の王保樹教授の司会により、商法等の法律専門家および大学院学生を対象にした講演をする機会があり、そこでの質疑応答の際に、本出張の成果を部分的に活用することができた。
    第二に、帰国直後の27日(火)には、中国国家経済貿易委員会の陳麗潔氏他2名の使節団と、日本貿易振興会本社ビル(東京・虎ノ門)にて、商法・証券取引法等の分野のうち、本年2月に北京で開催されたワークショップでは議論できなかった事項について意見交換をしたが、その際にも、今回の研究成果を大いに利用することができたため、使節団にとって充実した時間を過ごしてもらうことができたと確信している。
    第三に、人的交流という面での本出張の効果については、セミナーおよびワークショップにも出席された中国政法大学法律系民商法教授の王書江先生との2年間にわたる学術交流が実り、本年5月28日(月)から1週間、日本に滞在することになった際に、本学において、「中国の法律事情と企業組織再編法制の状況」というテーマで、5月29日(火)に、本研究科大学院学生を相手に講演をしてもらうことができた。熱心な質疑応答が続いたが、本出張の成果を活用して、司会を担当したこともあり、期待していた以上の成果を挙げることができたことを付言しておかなければならない。
  3. 本出張の協力者
    今回の出張は、18日間という短期間ではあったが、事前の準備をすることができたことと、中国側の関係者の積極的かつ熱心な対応により、さらには、日本貿易振興会北京出張所の小島末夫所長および田中玲代表その他多くの所員による多方面にわたる支援活動を得ることができたため、期待していた以上の出張成果を得られた。

以上


政法大学の王書江教授夫妻と
同大学正門にて

清華大学法学院内にある
大会議室にて講演

清華大学法学院にある
模擬法廷裁判長席にて

吉化集団吉林市化強建築安装公司の
社長である劉菜川氏に
日本からの土産をプレゼント

(くるしま たかし 国際社会科学研究科)

(担当:国際戦略室)


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