「文理融合」「国際性」「地域連携」
の3つの視点を重視

―― 2015年4月に学長就任以来、どのような視点で改革に取り組んできましたか。

長谷部 「スーパーグローバル大学創成支援」や「地(知)の拠点整備事業」に不本意ながら不採択となり、予算面でも厳しさが予想される時期に、「横浜国立大学が直面している危機をいかに乗り越えるか。それこそが学長の任務である」という強い意志と共に学長に就任しました。そのため、全学が一体となって改革の方向を共有し、YNUの特色を強化することが必要であると考え、特色の軸として「文理融合」「国際性」「地域連携」という3つの視点を定めました。
 まず「文理融合」についてです。YNUの基本理念は実践性にあります。多様な現実の生きた社会に原点を置いた学術を進めるためには、分野横断的なアプローチが不可欠です。そこで、ワンキャンパスに教育、人文、社会、理工系の学部・大学院が揃うという特性を活かし、横断的、文理融合的教育研究を推進しようということです。
 次に「国際性」については、21世紀以降、経済成長の軸がアジアなど新興国にシフトし、それらの国と地域の留学生も増加傾向にあります。そうした時代を「グローバル新時代」と捉え、それに対応すべく取り組もうということです。
 最後に「地域連携」ですが、高度な産業基盤があり、様々なイノベーションに取り組む、横浜・神奈川に立地することは大きなメリットである一方、少子高齢化、災害リスクといった問題もはらんでいます。こうしたローカルな課題に取り組み、課題先進国として新興国に解決モデルを示すことができれば、新たな大学の価値を世界に発信するチャンスになります。

―― 50年ぶりの新学部として「都市科学部」が設置されましたが、どのような期待を寄せていますか。

長谷部 文理融合の人材を育成し、都市が抱える諸問題をイノベーティブに解決することを使命とする都市科学部を設置できたことは大きな成果です。あわせて、他の学部でも、先ほどの3つの視点を意識した改革に取り組み始めています。

―― その一つとして、経済学部と経営学部の共同で「Global Business and Economics 教育プログラム(GBEEP)」がスタートしました。

長谷部 GBEEPでは、経済学と経営学の知識に加え、国際経済やグローバルビジネスについて、一部を英語講義として学びます。また、海外でのインターンシップや留学が必須となっているため、今の社会に必要なグローバルな感覚を磨ける実践的な教育を目指します。

―― この共同プログラムについて産業界からはどのような期待が寄せられていますか。

長谷部 今、大企業だけでなく中小企業も新興国を中心とするグローバルな市場を視野に入れています。欧米への進出を主としたこれまでのグローバル化とは、従来型の市場経済モデルに従うことを意味していました。これからは、それぞれの国特有の経済システム、政治・法制度、商習慣、文化、宗教をもつ地域で活かせる知識を持った人材の育成が求められており、このような期待に十分応えることができると思います。

グローバルエクセレンスな
研究・教育へ

―― 「学長ビジョン2016」の中で、「グローバルエクセレンスな大学を目指す」というキーワードが印象的でした。

長谷部 ビジョンとして横浜国立大学が目指すべき姿を、私はグローバルエクセレンスと表現しました。グローバルエクセレンスとは、多様な分野で世界の一流水準を目指す大学という意味です。今、国内の優秀な学生はアメリカやイギリスの名門校を目指す時代です。さらに、優秀な教員が海外の大学に引き抜かれ、移籍していきます。例えば、海外の大学と研究・教育面で協定する際に、世界ランキングというのは、重要な指標です。海外では新興国、途上国を含め、協定パートナーの大学のランキングを重視していて、ランキングの高くない大学は、今後の留学生確保などで困難が予想されます。より世界の一流大学と提携していくためには、まず500位を目標に、世界に通用する大学を目指さなければならないと自覚し、「グローバルエクセレンス」という概念を打ち出しました。

―― そのためにどのような価値を創出していくべきでしょうか。

長谷部 研究、教育、キャンパス環境、国際交流、地域交流、ダイバーシティなどが世界レベルの大学に引けを取らないことが求められます。
例えば教育の分野では、「ダブル・ディグリー」※、「ジョイント・ディグリー」※などのプログラムを世界の一流大学と結ぶことで、お互いの教育内容、教育水準を認め合い、学生同士の交流も促進されるため、エクセレンスな教育の質を担保できると考えています。
 キャンパス環境についても、アメリカでは図書館などの施設を24時間開放しています。図書館やIT環境にいつでも学生がアクセスできる環境を出来るだけ整えることも急務です。
 さらに「ダイバーシティ(多様性)」という面でも、女性研究者の割合、それから障がい者への対応について、現状に満足することなく、より進化させるため、新たな目標を積極的に定め、それを実現することが求められています。

―― 本学では基盤的研究分野や特色ある「リスク共生学」など、世界水準の研究が行われていますが、こうした研究が教育に与える付加価値についてどのようにお考えですか。

長谷部 横国大では約10,000人の学生うち、約2500人が大学院生で、さらに約500人が博士後期課程に所属しています。研究大学として、教員とこうした大学院生が連携することができれば、先進的な研究にチャレンジする推進力となります。
さらに、その成果が学部生にも還元されていけば、変化の激しい社会の変化の中で、自ら課題を発見して、自らその解決を考えるという、これからの時代に求められる能力を養うことに貢献できると考えています。

三層のイノベーションを進化させる
文理融合

―― 学長ビジョンの中で本学独自の「三層のイノベーション」という考えを示しています。

長谷部 経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションとは新しい生産方法や、プロダクツの発明という科学技術の分野に留まらず、新しい市場の開拓や、企業や工場内の組織の変革などにまで及ぶと言及しています。
 まず、科学技術がイノベーションの中心であることは間違いなく、理工系の分野(第1層)が力を発揮します。しかし、そうした科学技術が実際に社会で使われるためには、マーケティングやブランディングといった社会科学的な考え方にもイノベーション(第2層)が必要です。さらに、実際の社会の中で人間がどういう商品やサービスに価値を見出すのか、今後科学技術は人間社会においてどのようにあるべきかを考えるためには哲学や心理学といった人文学的視点(第3層)も不可欠です。そのため、理工系、社会系、人文系という3層においてイノベーションが必要となります。21世紀のイノベーションを考えていく際、ワンキャンパスにこの3層の学部・大学院が揃うワンキャンパスにおける文理融合こそが、本学の強みになると考えています。
 また、実際に新たなイノベーションの芽があった際、それを結び付け実行する力、つまり「アントレプレナーシップ」※が重要です。そこで、本学の特色である、実践的な人材育成が重要なポイントとなります。実践的な教育プログラムを通じて、体感的にアントレプレナーシップを身に付けることが、大学教育においてはますます重視されるため、課題解決型の授業や、フィールドワーク、地域実践型の授業の中で、実践的な体験を通じてアントレプレナーシップを身に付けた、イノベーティブな人材育成を重視します。

国際交流と地域連携が
教育・研究の質を上げる

―― 海外の大学との連携に力を入れていますが、どのような狙いがあるのでしょうか。

長谷部 国際交流を推進することが大学の教育や研究を発展させると考えています。例えば、横国大の学生は、海外にいって現地の大学生と交流しても、最初躊躇してなかなか発言できないのですが、交流を通じて、発音やアクセントにとらわれすぎなくて良いと分かると、堂々と自分の考えを話すようになります。
 以前中国の先生から、流暢に英語を話すという面では日本の学生は中国の学生に及びませんが、自分の考えや先行研究を批判的に自分で分析して、自分なりの結論を出そうとする姿勢が素晴らしいと評価いただきました。
 このように国際交流を重ねる中で、学生はたくましく成長します。そしてそれは教育という側面だけではなく、研究の分野でも同様だと思います。

―― 地域の企業、大学、自治体などとのつながりについてはいかがでしょう。

長谷部 地域の課題に取り組むためには、地元の自治体との連携が不可欠です。地域実践教育研究センター、産学連携課がこれまで築いてきた連携や、地元の教育委員会の皆様との連携などをとりまとめ、窓口を一本化することで、点と点の連携を、今後は面と面へと発展させ、それをきっかけに、地元企業との連携も拡大していく予定です。

学長のリーダーシップのもと、
オールYNUで取り組む

―― 今後は、卒業生との繋がりも重視されます。

長谷部 卒業生との繋がりを強めていくことも重要な課題の一つです。そこで、これまで学部系統ごとに組織されていた同窓会と連携し、教職員や在校生を含め、大学全体で一つにまとめるため「YNU校友会」を組織しました。ここでも文理融合を実現し、オールYNUという姿勢で交流を深めていきます。

―― 最後に、大学改革を進めるにあたって学長のリーダーシップをどのように考えていますか。

長谷部 グローバルエクセレンスな大学を目指すため、現在はまだビジョンを描いたところです。これからの役目はそれをいかに大学全体に浸透させ実行するか。それこそが学長のリーダーシップです。
 一人ひとりの教員、職員の皆さんが、グローバルエクセレンスな大学を目指すために、現状を見つめなおし、現場レベルで何ができるかを考え実行することで、大学全体の底上げすることが可能です。そのため、学内の連携をより強め、ビジョンを戦略に落とし込み、取り組みにつなげていくことも今後の大きな課題です。そこで、まず私が先頭に立ってやって見せる、という姿勢がまずは必要だということを自覚しています。

※ダブル・ディグリー…日本と外国の大学が、教育課程の実施や単位互換等について協議し、双方の大学がそれぞれ学位を授与するプログラム。 ※ジョイント・ディグリー…日本と外国の大学が、教育課程を共同で編成・実施し、単位互換を活用することにより、双方の大学がそれぞれ学位を授与するプログラム。 ※アントレプレナーシップ…起業家教育。起業家的な精神と資質・能力を育む教育のこと。

2017年4月2日掲載

profile

長谷部 勇一

長谷部 勇一

横浜国立大学長。経済学修士。環太平洋産業連関分析学会会長、中国投入産出学会顧問などを歴任。研究分野は比較経済システム論、産業連関論、環境経済論。

竹村 泰司

インタビュアー
竹村 泰司

学長補佐。横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門教授。博士(工学)。研究分野は医療・バイオマグネティックス、センサ。