YNU CROSS TALK vol.01

横浜、神奈川ならではの成長戦略を描く

横浜銀行 頭取 川村健一 ☓ 横浜国立大学 学長 長谷部勇

本学・横浜銀行の
新たなチャレンジ

川村健一氏が頭取に就任したことをきっかけに、積極的な地域戦略を展開している横浜銀行。

新学部となる都市科学部を創設し、地域との関わりをさらに深めようとする横浜国大。

神奈川県・横浜市の活力を上げ、魅力ある地域にするために何ができるのか。

横浜国大の卒業生である川村頭取と長谷部学長が語り合いました。
メイン写真:地域実践教育研究センター「ローカル実践コアの拠点」にて

創設を支えてくれた地域に恩返しを

本学は今年4月、50年ぶりの新学部「都市科学部」を創設します。土木系、建築系に加え、環境系の先生方にも入っていただき、都市と農村あるいは自然環境の両面から「都市づくり」を考えていきます。さらに、この都市科学部の中に「都市社会共生学科」も創設します。人文系の視点も加え、都市社会・都市文化など、都市に集い、生きる人に焦点を当て、本格的な「文理融合」の学部をつくります。都市と自然環境とのバランスを図り、人々の暮らしも含めた「都市づくり」を目指す。それを科学的に実践できる人材を育成することも大学の使命と考えています。
それは素晴らしい。大学は純粋な学術研究にとどまらず、リアルな地域づくりに貢献していただきたいと思います。ぜひそうした取り組みを発信し、地域住民の方々と一緒になって、自然と共生する新しい地域づくりに挑戦してほしいですね。
横浜国大は、元をたどれば地域に支えられてつくられた大学ですから、今度は本学が地域にお返しする番だとも考えています。本学理工学部の前身である横浜高等工業学校がつくられたのは1920(大正9)年。地元の有力者であった元日銀総裁の井上準之助氏や、横浜銀行のルーツである横浜興信銀行初代頭取の原富太郎氏らが政府に陳情し、県と市からの多額の出資協力によって創設されました。また、経済・経営学部の前身である横浜高等商業学校は、関東大震災があった1923(大正12)年創立です。震災で設立を延期しようとした文部省に対して、地元からの強い要望があり1年前倒して創られた。いわば横浜市の復興のシンボルだったのです。
実は横浜銀行も、地域の力によって誕生しました。第一次世界大戦当時、横浜港は生糸の輸出で活況を呈していました。しかし、生糸相場が暴落し、地元の七十四銀行が1920年に倒産してしまった。およそ5万5千人の預金者を守るため、破綻の受け皿銀行として、横浜財界の方々が横浜興信銀行を創設されたのです。地域の復興のために、人々や企業が資金面、人材面を支援してくれた。かつての横浜はそんな市民パワーのある町だったということを、私たちは忘れてはいけないですね。
そうですね。東日本大震災から5年が過ぎましたが、まだ復興も途上であり、日本全体も長期停滞から抜け出せていません。そのルーツに地域との関わりや復興がある本学としては、あらためて地域と積極的に関わっていきたいですね。

グローバルな視点をもった人材を育てたい

川村頭取は、横浜国大にどんなことを期待されていますか?
社会に役立つ素晴らしい人材を輩出してもらうことですね。社会や経済環境の変化と共に、働く人に求められることも変化しています。それを理解しながら、活力あふれる若者を育てていただきたい。
日本経済は成熟期を迎えてデフレ社会に移行し、学生の意識もデフレ化してしまっているのが実情です。しかしグローバルな視点からすると、パワフルでエネルギッシュな人材、もっと上昇志向がある人材を育てなければいけないと思いますね。
横浜銀行としても、やはり海外で通用する人材、特にアジアの活力ある成長地域の空気を肌で感じられる人材を育てていこうと考えています。
本学は港町の横浜という地にあって、国際性・開放性も掲げています。グローバルな視点を持った人材を世に輩出しなくてはいけません。また近年では、海外の大学との連携にも力を入れています。人材の育成という面だけでなく、世界とつながった地元企業が海外に事業展開をする際の一助となればと思っています。
横浜銀行は上海に支店を出しておりまして、東南アジアの主要国の銀行と提携し、私共のお客様が現地に進出する際のお手伝いをしています。横浜国大とともに、現地での接点づくりができればいいですね。
そうですね。また、本学では約1万人の学生の中で、900名近い留学生が学んでいます。中国や韓国を中心に、ベトナムやタイ、マレーシアといった東南アジアからの留学生も増加しています。留学生向けのインターンシップ制度を活用して日本の企業文化を理解し、日本企業に就職すれば、彼らが日本と母国との架け橋となってくれるでしょう。そうした学生を育てていくことも、今後本学の重要な柱になっていくと思います。
留学生で横浜銀行に就職する人もおります。私たちも、彼らがもっと力を発揮できるよう、留学生向けのキャリアパスをつくっていかなければなりませんね。

自分の目で見て考え、個性を磨いてほしい

最後に、本学の学生へのメッセージをお願いします。
一つは、やはり海外に学んでほしいですね。いまの若者はインフレを知りません。 かつての日本人は、生産性を上げ、労働組合をつくって賃上げをするなど、自分たちの手で生活水準を上げるために必死でした。デフレ時代の学生は、生活を維持するために動かない。しかし、これは「成長し続けなくては資本主義経済が成り立たない」という考えに逆行しています。このままでは世界から取り残されてしまうという危機感をもってほしい。 もう一つは、時代や社会に対して自分なりの視点をもってほしい。自分の目に見えているものが本当に正しいかどうかを、あらためて考えてみてほしいのです。私が横浜国大で学んでいた頃は、学生運動の気運がまだ残っていて、政治や社会について一般学生も真剣に考える風潮がありました。現在の若者には、そういう刺激は少ないように思います。国内外の出来事に関心をもって、時代や社会の変化について、自分の目で見て、自分の頭で考えて発言できる人になってほしい。自分の個性を磨いて、それを私たちにぶつけるぐらいの気概をもってほしいですね。
若い人にもぜひこれを読んで刺激を受けてほしいと思います。本日はどうもありがとうございました。

2017年1月31日掲載

写真①ワンガリ・マータイさん訪問記念に植樹されたのはシイ、タブ、カシなど約15種類の苗木200本。学生・教職員らとともに留学生や小学生によって植えられた。写真②学長室にて対談中のお二人。写真③経済・経営学部の前身である横浜高等商業学校の初代校長を務めた田尻常雄先生の銅像。写真④地域実践教育研究センター「ローカル実践コアの拠点」にて同センター所属の志村真紀准教授から説明を受ける川村頭取。写真⑤大学院国際社会科学研究棟

川村健一(Kawamura Kenichi)
川村健一(KAWAMURA Kenichi)

神奈川県出身。横浜国立大学経済学部卒。1982年横浜銀行入行。新横浜支店長、綱島支店長、リスク統括部長、取締役常務執行役員などを経て2016年4月からコンコルディア・フィナンシャルグループ取締役、6月から横浜銀行頭取。

学生時代に学んだことが今どういかされているか

「理論経済の藪下史郎先生のゼミに所属し、ちょうどマネタリズムに注目が集まっていた時期だったので、貨幣供給量がどれだけ物価や雇用に影響を与えるかを学びました。データを計量化して多変量解析をし、仮説の立証を行うなどモデル分析は難しかったですが、いま金融市場の変化に対し、数字や相関をとらえながら判断しようとしていますから、当時勉強したことが多少なりとも役立っていると思います」

長谷部勇一(HASEBE Yuichi)
長谷部勇一(Hasebe Yuichi)

1984年一橋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学(経済学修士)。同年横浜国立大学経済学部助教授、その後カリフォルニア州立大学バークレー校客員研究員、横浜国立大学経済学部教授、同大学大学院国際社会科学研究科長を経て、2015年4月より現職。

対談を終えて

本学卒業生らしい誠実さとともに、アクティブな印象をもちました。足を使った現場感覚を大事にして地域を考える点など大学経営にも大変参考になりました。