横浜国立大学

YNU CROSS TALK vol.02

都市の中で大学と企業が「仕掛け」をつくり
社会を巻き込んだ取り組みで選ばれる都市に

  • 長谷部 勇一
    横浜国立大学 学長
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  • 辻󠄀 慎吾
    森ビル株式会社 代表取締役社長

東京を世界一の「磁力ある都市」に

長谷部 「著書(福川伸次/市川宏雄編『創発する都市 東京』第6章「創発する都市を創り、育む」都市出版、2017年)を読ませていただきました。「国際都市間競争を勝ち抜き、東京を世界一の磁力ある都市にしたい」というメッセージの中で、特に“磁力”と表現されているのがたいへん印象的です。

辻󠄀 グローバル時代を迎え、人・モノ・金・情報は国境を越えて、より有利で魅力的な都市へと流入する「国際都市間競争」の時代に突入しました。現代は「都市の時代」と言われ、地球上のわずか5%の面積である都市部に、世界人口の50%以上が集中しています。先進国に限れば、75%が都市部に居住しています。これは、人々が国を選ぶのではなく、都市を選ぶ時代になったことを意味しています。

 森ビルでは20年以上も前から、もはや国と国ではなく、都市と都市の競争になると訴えてきました。そして2008年からは、森ビルのシンクタンクである森記念財団が、「世界の都市総合力ランキング(GPCI)」を毎年発表しています。世界の都市を比較する調査やランキングは他にもあり、例えば英国の情報誌『MONOCLE』が発表する、住みたい都市ランキングでは東京が1位です。一方で、金融都市ランキングでは東京はグッとランクが下がります。

 GPCIは、都市における特定の領域ではなく、6分野・70の指標を採用することで、都市の「総合力」を評価し、ランク付けしているところが特徴です。この都市の総合力こそが競争力であり、都市の磁力なのです。昨年東京はパリを抜き、ロンドン、ニューヨークに次いで3位となりました。さらに今年は、2位のニューヨークとの差を縮めつつあります。一方で、シンガポール、ソウル、香港、上海などのアジア諸都市が急速に力をつけてきています。

 政官民が一体となって、日本の首都・東京の総合力、つまり磁力を向上させ、グローバル企業やクリエイティブな人々に選ばれる、世界一の都市づくりを進めていくべきだというのが私たちの提案です。

長谷部 東京は、横浜をはじめとする首都圏という見方をすれば、世界有数の経済圏と言えると思いますが、3位に甘んじているのはどういう課題を残しているからでしょうか。

辻󠄀 まず、法人税率の高さが挙げられます。また、外資系企業がビジネスを興しにくい環境、つまり市場の魅力に欠けるといった点も指摘されています。成田空港に代表されるように、国際空港から都心までのアクセスにも課題があります。さらに、文化・交流面での取り組みにおいては、1位のロンドンや2位のニューヨークに大きく水をあけられています。

長谷部 大学の世界ランキングでは研究力が大きく評価され、近年、中国や韓国が論文数や産学連携を伸ばしランキングをあげていますが、大学の魅力は研究力だけに留まるものではないと思っています。都市における磁力と同じように、大学も様々な分野で魅力を打ち出していかなければなりません。21世紀以降、経済成長の軸がアジアなど新興国にシフトし、それらの国と地域からの留学生も増加傾向にあり、横浜国立大学ではそうした留学生が1,000人を越えました。一方で、日本の学生も国内の大学に留まらず、海外のトップ校を目指す時代となりました。こうした時代に対して、私たちが目指す姿を「グローバルエクセレンス大学」と表現し、多様な分野で世界の一流水準を目指すべく、研究、教育、キャンパス環境、国際交流、地域交流、ダイバーシティなどの面で様々な取り組みを始めています。まさに日本の大学も総合力で世界のトップクラスを目指していかなければなりません。

日本の大学も総合力で
世界のトップクラスを目指す

東京と地方それぞれが「あるべき姿」を考えるべき

長谷部 東京を人・モノ・金・情報を惹きつける磁力をもった都市へ、と考える際、森ビルが考える都市づくりのコンセプトとはどのようなものですか。

辻󠄀 私たちが理想とする都市は、様々な都市機能、例えば、働く、住む、遊ぶ、学ぶ、憩うなどが、徒歩圏内で高度に複合したコンパクトシティです。それが一番面白い都市だし、異質な要素の組み合わせによってイノベーションが起こる都市だと考えています。

 日本の都市計画は、住居地域、オフィスエリア、リゾート地などと用途ごとに明確に区別され、大学も一時郊外に集約された時期がありました。しかしながら、各機能がバラバラに存在するのではなく、これらすべての機能がコンパクトに集積しているのが都市であるはずです。機能を分散させることによって、エリア間を移動する必要も出てきます。しかし、通勤時間に多くの時間を費やすのはもったいない。それに、日本人は文化やアートに対する考え方も遅れていて、一般的な美術館は17時に閉館してしまう。これでは働いている人が仕事帰りに立ち寄ることは不可能です。欧米の都市生活者は、日々の生活において気軽に美術館に足を運びます。文化に対する姿勢が違うのです。こうした、文化が日常生活に溶け込んでいる都市と競争をするためには、東京を訪れる外国人が満足できる文化施設が都心部にもっともっと必要です。だから、アークヒルズにはサントリーホールを、六本木ヒルズには森美術館を組み込みました。さらに、ホテル、住宅、オフィス、映画館、公園なども複合させた六本木ヒルズは、まさに様々な都市機能が徒歩圏内に集約された「都市の中の都市」です。

 さらに、都市はつくるだけではなく、手塩にかけて育てていくことが重要です。森ビルでは、ディベロップメントからタウンマネジメントまで一気通貫で取り組んでいます。また近年では横浜国立大学の名誉教授 小林重敬先生にもご尽力いただき、エリアマネジメントについても研究・実践を重ねています。

長谷部 今、地方創生が叫ばれています。森ビルといいますと、都市というイメージが強いのですが、地方における取り組みや、都市と地方のバランスについてどのように考えられていますか。

辻󠄀 まず、前提として「東京か地方か」という視点自体に問題があると考えています。東京には日本の首都として、国際都市間競争を勝ち抜くという使命があります。一方で、地方都市が衰退していく中で、どうやって地方を活性化し、創生していくのかという課題もあります。ただ、これら2つの課題を同じテーブルに乗せてしまうと、論点が変わってしまいます。東京にあるべき姿があるように、地方都市にもそれぞれあるべき姿があるはずです。

 実は森ビルは、地方のコンサルティングも多く手掛けています。例えば、福井県の永平寺門前の街づくり事業です。かつて150万人いた参拝客が50万人程度にまで減少し、これを盛り返そうということで、参道を再開発したり、宿坊をつくったり、河川の整備などをお手伝いしています。永平寺が拠点となり観光客を集めれば、周辺の街にも好影響が及びます。この例のように、地方は地方でそれぞれが「選ばれる都市」になるべく、磁力を高める努力をするべきです。

東京にあるべき姿があるように
地方都市にもあるべき姿がある