相澤 益男(あいざわ・ますお) 横浜国立大学工学部卒業後、東京工業大学大学院博士課程修了。東京工業大学長、国立大学協会会長、総合科学技術会議議員などの要職を歴任。現在は科学技術振興機構顧問、横浜国立大学経営協議会委員。

分野を越えてつながり、自由に研究ができる環境を

藤江 本日は、横浜国立大学に縁があり、俯瞰的かつ客観的に本学をご覧になってこられた先生方に集まっていただきました。まず、相澤先生は本学ご出身で、他大学で活躍され、さらに我が国の科学技術政策の舵取りをしてこられました。藤野先生は専門の研究分野を通じて外から本学をご覧いただき、現在は本学の先端科学高等研究院で重要な役割を担っていただいています。私自身も複数の大学を経験し、本学に戻ってきました。本日は、改めて先生方と、横浜国立大学は今後どのように進化していくべきなのか、本学の特長や取り巻く社会状況を踏まえながら一緒に考えていきたいと思います。

 まずは、相澤先生から、横浜国立大学とのこれまでの関わりや現在の課題について伺えますか。

相澤 私は横浜国立大学の工学部を1966年に卒業しました。当時はキャンパスが複数に分かれていたためか、総合大学という意識があまりありませんでした。大学院も創設される直前で、私が学部を卒業する前年から修士課程がスタートしましたが、私は外に出て思い切ってやってみたいという思いが強く、東京工業大学の大学院に進みました。

 その後、横浜国立大学も博士課程を創設し、いわゆる研究大学という体裁が整いました。そして、1970年代中ごろから現在のキャンパスに全学部が集まり、より連携しやすくなりました。このように、比較的短い期間に急速に展開していった本学は、研究大学としての歴史が浅いという側面は否めません。しかし、アジア近隣諸国の主だった大学はもっと短い時間に大変な革新を行っています。21世紀に入ってからは特に顕著で、そうであっても、世界のトップランクの大学に様変わりしている。こうしたアジアの躍進に、横浜国立大学は参考にすべきところが多くあるのではないでしょうか。藤野先生はいかがですか。

藤野 私の場合は、最初に横浜国立大学とご縁をいただいたのは息子が経済学部に入学した時です。経済学部の父母会や選手の親としてアメリカンフットボールの応援団に参加しました。いま実際に教員として過ごしてみて、アメリカ的な雰囲気を感じさせる良いキャンパスだなと改めて感じています。まだ着任して2年足らずですが、組織面については、専門分野の横のつながりについて、もっとネットワーキングできたりするとよいのでは、という印象を持っています。特に私が所属する先端科学高等研究院は、研究の融合の場なので、異なる分野の若い研究者がつながるような、良い出会いを作ることが出来ればという思いで尽力しています。

藤江 私は8年半勤務した東京工業大学資源化学研究所から横浜国立大学に助教授として着任し6年在籍後、豊橋技術科学大学に異動になり13年在籍後、8年前に再び本学に戻ってきました。本学での印象は窮屈感でした。豊橋技科大や東工大で自由にやらせてもらっていたので余計にそう感じたのかもしれません。私としては、今後どのように研究しやすい環境をつくっていくかが、これからの改革、進化ということになると思っています。

「我が道を行く人」が次々に出てくる雰囲気が大切

藤江 今後の展開として、ナンバーワンを目指すのはなかなか難しい側面があろうと思います。本学が得意とする新しい分野を開拓してオンリーワンを目指すということが、一つのアプローチではないかと思っています。その観点で、どう進化すればよいのか、こんな方向がいいのではないか、あるいはここが今後伸ばせるのではないかというところをご教示ください。

相澤 横浜国立大学も進化していますが、世界の動きはもっと進化が激しい。まずそこのギャップに目を向けなくてはなりません。今まで横浜国立大学もいろいろな組織改革や新たな展開を行ってきたと思いますが、大学院の重点化など、中身よりも制度の変更を優先してきた印象を持っています。それが何を意味しているかというと、外から見て際立ったイメージを抱きにくいのです。

 例えば工学部には昔から「名教自然」という、すぐれた教育研究は自然を尊ぶ、つまり、学問は強制されるものでなく、自らの意志で自発的に自由に学ぶべきものであるという意味の、建部の精神でもあり教育方針でもあり研究の指針でもあるポリシーのようなものがあり、それをキャッチフレーズにしながら学部作りが進んでいました。しかし、最近は、横浜国立大学がどんな大学を目指しているのか、という議論の中でそうしたポリシーが表現されていないのではないかと思います。逆にいま、こういう時期だからこそ建学の精神に匹敵するようなものを明確に打ち出し、中心軸に据えて全学が一体的に動いていこうとすることが第一に必要なのではと思います。2004年の国立大学法人化の最大の狙いは横並びの国立大学を一つひとつ特色が明確な大学にして国際競争力を高めようということでしたが、横浜国立大学は明確な特色を打ち出せていないのではないでしょうか。

藤野 陽三(ふじの・ようぞう) 東京大学大学院修士課程修了後、ウォータール大学博士課程修了。筑波大学構造工学系助手、東京大学工学部助教授、東京大学工学系研究科特任教授などを経て、2014年10月から横浜国立大学先端科学高等研究院上席特別教授。

藤江 特色が必ずしも明確になってない、何をやろうとしているのか見えにくいというのは、私も外から見ていてそう感じていました。

藤野 研究の面から言いますと、私は土木という分野を専門にしていますが、どんな分野でも他のさまざまな分野の人と関わることが進化につながると考えています。蛸壺の中だけでやっていても刺激がない。刺激を求めて、良い進化を個人個人が達成することが大学人として一番大事なのかなと思っています。

藤江 やはり横方向のつながりが課題ですね。

藤野 そうです。これが新しい風につながるだろうと思います。文明生態学で著名な梅棹忠夫先生も「研究では穴ばかり掘るな、横につながれ」と言っておられます。幅広い学者になるためにはそういう視点が必要です。

相澤 私も基本的には同感です。結局お題目を唱えることが重要なのではなくて、各構成員、学生も含めてその大学の場にいる人たちが「この方向を向いて、こんな風に頑張るんだ」という雰囲気を共に作り上げることが大事なんです。例えば、横浜国立大学と東京大学は違います。だから同じことを掲げてもうまくはいかない。本学はどちらかというと品位や体裁にあまりとらわれず、我が道を行くという人間が次々と出てくる雰囲気を作るべきではないかと個人的には思っています。

藤江 我が道を突っ走るような雰囲気を醸し出す。さらには突っ走る人を支える。足を引っ張らない。そこが重要になる。その観点でガバナンスの問題が出てきます。

相澤 ガバナンスがなぜ必要かというと、ミッションを実現するためです。例えば東京工業大学は世界最高の理工系総合大学を目指すと宣言しています。世界最高と言い切っている。こうした目標を掲げて教職員も学生も一体となってその方向を向いていく。

 また、危機意識を共通認識することも重要です。危機意識が共有されたらだいたい何でもできる。そして学長に権限を集中させたガバナンスをしっかり機能させ、構成員それぞれが自由闊達に活動していく。組織全体で研究戦略をどうやっていくかということも極めて重要です。

国際都市である「横浜」に位置することも強調

藤江 では、本学の特徴や目指す方向性を、どのように発信すべきでしょうか。

藤野 私は、「横のネットワークの強い大学」を標榜するのが良いのではと思います。この横のネットワークとは、大学の中だけではなく大学の外との関係も含みます。横浜国立大学は総合大学ですが分野によってはカバーできていない部分もある。同じ神奈川県内の大学などとのネットワークが臨機応変に組めて、「1+1=3」になる可能性のある組織と協同研究を行うのもいいと思います。私の所属している先端科学高等研究院は、まさにそうした目的のために創設されました。今後は例えば学外の人、他分野の人を含めたグループを作り、定期的に集まって何かを創造していくことにもチャレンジしていきたいですね。

相澤 先端科学高等研究院は、そうした学外はもちろん、世界とのつながりを十分に活用できる可能性を持った組織ではないかと思っています。そこでキーになってくるのが科学技術だけでなく、横浜国立大学のもう一つの特徴でもある経済の分野かもしれません。

藤野 確かに、経済学部だけでなく経営学部もあります。あわせると100名の教員がいて、全国的に見てもビジビリティが高いと思います。工学部と経済・経営学部との融合はやっている大学はあまり耳にしません。

藤江 幸一(ふじえ・こういち) 東京工業大学大学院博士課程修了。横浜国立大学工学部助教授、豊橋技術科学大学エコロジー工学系教授などを経て、2007年から横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、2015年3月より先端科学高等研究院副研究院長・教授。

相澤 横浜国立大学にはそれだけの「強い武器」があるということです。そこにもう少しプラスして、国際都市である横浜にキャンパスを構えていることも強調したい。平成29年度に設置予定の「都市科学部」は、横浜国立大学の新たな展開を、社会に対して印象付ける可能性を秘めています。その際、日本の文化をバックに世界を惹きつけていくということも極めて重要です。キーワードで言えば、「世界を惹きつけるグローバルエクセレンスを創出する」というのはどうでしょう。研究面でも教育面でもグローバルエクセレンスを目指す。教育面では、創造する、挑戦する人材を育成する。教育していく。さらには、一人ひとりのボトムアップが自然に起こってくるような状況をつくり、そういう人たちの力を思い切って発揮させる環境を整備していくことですね。

藤江 横のインタラクション、グローバルエクセレンス、創造と挑戦。今後の横浜国立大学の進化にとって大変重要なキーワードが出てきました。ぜひとも、今日いただいたお話が本学の一層の発展に活かされればと思います。本日はありがとうございました。