横浜国立大学

YNU CROSS TALK vol.02

都市の中で大学と企業が「仕掛け」をつくり
社会を巻き込んだ取り組みで選ばれる都市に

  • 長谷部 勇一
    横浜国立大学 学長
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  • 辻󠄀 慎吾
    森ビル株式会社 代表取締役社長

文理融合で実践を重視する都市科学部

長谷部 横浜・神奈川は、東京圏という括りで見られることもありますが、横浜らしさをどう作っていくかという課題もあります。都市でいかに住みやすい街をつくっていくか、郊外も含めて考える必要があります。そのために誕生したのが都市科学部で、神奈川全体をフィールドとして、都市について研究しています。

 都市は社会インフラや建物だけがあるわけではなく、そこに住む人間がいます。また自然環境も影響しています。そのため、単に理工系の知識だけではなく、人文社会系の知識も求められるため、都市科学部は、都市社会共生学科、建築学科、都市基盤学科、環境リスク共生学科という4つの学科を擁し、都市を総合的に科学しています。

 教育の特徴としては、大学付近の商店街の活性化や、津波のリスクがあるエリアにおけるハザードマップをGISを利用して先生と学生が一緒になってつくるなど、横浜・神奈川をフィールドとして実践的な学びに力を入れています。

 また、建築分野では世界的に権威のあるプリツカー賞を受賞した西沢立衛先生や妹島和世先生、また他の分野でも著名な先生方が在籍しており、学生たちは学科を越えて広く勉強できるという大変恵まれた環境があります。

 さらには、途上国の都市交通の問題を調査したり、農村に行って学校や道路をつくるといったプロジェクトに学生を派遣したりするなど、国際交流が活発であることも特徴です。

 こうして学生時代から文と理の垣根を越えてグローバルに議論し、実践できる力、つまり総合コーディネート力を身に付けられます。

辻󠄀 文理融合のアプローチによって、最先端技術を活用しながら都市が抱える様々な課題を解決するという、都市科学部が目指す人材像は、まさに私たちディベロッパーが求める人材像とも重なり、その理念には深く共感します。

 実践を重視することは本当に大切です。私もよく若い社員に、インターネットでいろいろ調べられる時代だが、調べただけで知った気になるのではなく、自分の目で実際に見て欲しいと伝えています。自分の目で見て、自分の肌で感じて、自分の頭で考えてみて、初めて自分の中に残るものです。

 また今は自ら学ぼうと思ったら学べる環境が整っています。企業や大学が様々なシンポジウムや講演会を開催したり、弊社でもアカデミーヒルズという事業を通じて、本格的な学びの場を提供したりしています。今の時代は、探せばいくらでも面白いものが転がっているわけですから、ぜひ自分から学ぶ姿勢をもってほしい。大学生のうちからどんどん外に出て、学び、感じてほしいですね。そうした実践を通じて得たものは社会に出てから必ず役に立ちます。

 自分から学ぶ姿勢が重要なのは、企業にとっても同じです。森ビルは今、様々な企業・大学・研究機関、そしてマサチューセッツ工科大学のMITメディアラボなどと、「都市とAI」「都市とバイオ」といったテーマで、ヒルズを舞台に共同研究や実証実験に取り組んでいます。「都市づくりのトップランナー」として、未来の都市のあるべき姿を模索するためには、自らイノベーションを起こし、自分の手で未来を切り拓いていかねばなりません。

自分から学ぶ姿勢の重要性は
企業にとっても同じ

社会装置としての大学、企業の可能性

長谷部 辻󠄀社長は、横浜国立大学のご出身ですが、どのような学生生活を送られていたのですか。

辻󠄀 大学院生の時、横浜市の仕事に携わっていました。みなとみらいの計画や都市政策制度の研究など、その良し悪しを市と一緒に評価していました。当時はあまり官民連携という枠組みがありませんでしたが、私たちの研究室は、横浜市や川崎市の委託を受けていました。実際の現場で活躍している方の話やプレゼンテーションは非常に面白かったです。やはり何事も実践しないとだめです。

 先ほどのMITメディアラボの例のように、我々が様々な企業や大学と協働できるのは、「ヒルズ」という受け皿があるからです。あらゆる活動の舞台である都市は、次世代技術の絶好の実証実験の場です。ヒルズなら森ビルが一元的にマネジメントしているため、様々な許可もとりやすいのです。

 話は変わりますが、森ビルは意識的に街の中にコミュニティをつくっていこうということもしています。いろんな人が集まれる場所をつくったり、皆が出会えるイベントを開催したり、様々な「仕掛け」を行っています。例えば、毎月1回開催している「Hills Breakfast」というイベントには、オフィステナントの方はもちろん、学生やアーティストなど多様な人々が集まります。また、約6万人のオフィスワーカーを対象としたフットサル大会を開催したり、テナントと協力して子供向けのワークショップなども行っています。多様な人々を集め、様々な仕掛けをすることで、そこから新たな出会いやアイデアが生まれてくるものです。ヒルズ同様に、大学も様々な仕掛けによって新結合を生み出すことが可能な場所だと思います。

長谷部 横浜国立大学のキャンパスでも、例えば、障害者の方のバス乗降の利便性を高めるための社会実験や大学周辺の鉄道沿線の街作りへの協力を行うなど、いくつかの企業と連携が実践されています。横浜・神奈川地域は高度な産業基盤を有している一方で、少子高齢化、郊外住宅団地の老朽化、地震など自然災害リスクなど解決すべき多くの課題もあり、いずれもが人文系、社会系、理工系の各分野が横断した文理融合による実践が求められています。本学がこのようなローカルな課題解決に取り組み、それをグローバルにも発信していきたいと思います。

辻󠄀 今後の発展にも大いに期待しています。企業も同じですが、同じタイプの人ばかりが集まってもつまらない。学生も色々なタイプがいた方が良いと思います。例えば、ものすごく口下手だけど、ある特定の分野では誰にも負けないとか。そういった人材は魅力的です。都市科学部には、ぜひ多様な人材を輩出していただきたいと思っています。

長谷部 さきほど「仕掛け」という言葉をお聞きして、大学でも文理融合や地域貢献を進める上でいろいろと考えたくなります。ぜひこれからも様々な連携をよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

2018年1月11日掲載

様々な「仕掛け」で
文理融合や地域貢献を進めたい