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【プレスリリース】リサイクル・アップサイクルが可能な植物由来の可分解性高分子合成に成功

本研究のポイント

・精油由来の芳香族化合物「フェニルプロパノイド」を原料とし、[2 + 2]環化付加重合を行うことで高バイオマス含有率の新規ポリマーを開発しました。
・ポリマーは、Diels–Alder反応やSi-O結合の開裂により温和な条件で分解可能であり、分解生成物を用いたリサイクルやアップサイクルにも成功しました。
・分解生成物の1H NMRスペクトル解析によって、シクロブタン環上の置換基の位置および立体選択性を解明しました。

研究概要

本研究では、精油の主成分であるフェニルプロパノイドを原料とした可分解性バイオマスポリマーを開発しました。具体的には、フェニルプロパノイドをSi-O結合によって連結した二官能性モノマーを合成し、[2 + 2]環化付加重合によるポリマー合成を行いました。得られたポリマーは69-79 wt%という高いバイオマス含有率を有していることに加えて、芳香環・シクロブタン環・Si-O結合の存在に起因した良好な熱物性を有することも明らかとなりました。また、本ポリマーは温和な条件下で分解可能であり、分解生成物を利用したリサイクルやアップサイクルにも成功しました。本研究は、従来の化石燃料資源に依存したポリマー合成手法を代替するものであり、持続可能な社会の実現に向けて大きく貢献することが期待できます。

本研究成果はSpringer Natureの雑誌Nature Communication に受理され、オンライン版が 2025年11月27 日に公表されました。

社会的な背景

 地球温暖化等の環境問題への関心が高まる中、高分子材料の原料として持続可能なバイオマス資源を有効活用する試みが注目を集めております。中でも、精油から抽出されるフェニルプロパノイドは、価格や入手容易性および構造多様性の観点から、次世代のポリマー原料としての可能性を大いに有しています。しかしながらフェニルプロパノイドを用いた従来のポリマー合成は、ほとんどがポリスチレン合成に焦点を当てており、ポリマーの分解やバイオマス含有率の向上が困難であるという課題がありました。
 このような背景から、本研究ではフッ化物イオンによって容易に分解可能なSi-O結合を導入したモノマーを合成し、[2 + 2]環化付加重合によりモノマーを単独重合することで、分解性および高バイオマス含有率を併せ持つポリマーの合成に成功しました。さらに、シクロブタン環とイソプレンとの低分子でのDiels-Alder反応を応用することで、シクロブタン環の開裂を伴う前例のないポリマー分解手法の開発にも成功しました。従来のポリマー分解手法として一般的な加水分解や熱分解では、強酸/強塩基や高温条件を必要とする場合がほとんどでしたが、本研究の分解手法はいずれも温和な条件下で進行するため、環境負荷の大幅な低減が期待されます。

研究成果

 横浜国立大学の信田尚毅准教授、跡部真人教授らの研究グループは、同大学の上野和英教授や富山大学の研究グループと共同で、フェニルプロパノイドを原料とした可分解性バイオマスポリマーの開発に成功しました(図1)。
 はじめに、フェニルプロパノイドとケイ素を有するリンカーを反応することで、二官能性モノマーを合成します。その後、化学的・電気化学的にモノマーを酸化することで、正孔触媒的[2 + 2]環化付加重合によるポリマー合成を行いました。特に電解酸化によるポリマー合成では、支持電解質の配位性が低いほどポリマーの収率や分子量が向上したことから、系中のラジカルカチオンを安定化可能な電解液の設計が重要であることが示唆されました。一方で酸化電位の高いモノマーに対しては、光触媒によるエネルギー移動を利用した重合が有効であり、カルボニル基による三重項状態の安定化が効率的な重合の進行に寄与していることも示唆されました。
 得られたポリマーは良好な熱物性を有しており、これはポリマー中に存在する剛直な芳香環やシクロブタン環、そして高い結合乖離エネルギーを有するSi-O結合に起因するものと考えられます。
 さらに、本ポリマーは温和な条件下において2通りの手法で分解が可能です。1つ目は、シクロブタン環の開裂を伴うDiels-Alder分解です。溶媒の検討からは、分解効率の向上にはラジカルカチオンの安定化が重要であることが明らかとなりました。本分解手法はこれまでに前例のないポリマー分解手法であり、可分解性ポリマーの創出において大きな進展となることが期待されます。
 2つ目はフッ化物イオンによるSi-O結合の開裂です。本分解手法では、ビスフェノール骨格を有する分解生成物が得られます。したがって、分解生成物とケイ素リンカーを反応した場合は元のポリマーへのリサイクルが可能であり、他のリンカーと反応した場合はポリウレタンやエポキシ硬化樹脂へのアップサイクルが可能であることを実証しました。
また、分解生成物の1H NMRスペクトルを解析することで、シクロブタン環上の置換基について、head-to-headかつantiが優勢の構造であることが明らかとなりました。
 このように本研究では、Si-O結合の導入や[2 + 2]環化付加重合によるモノマーの単独重合を実現することによって、新規の可分解性バイオマスポリマーの合成に成功しました。今後において、分子量や分解反応の効率をさらに向上することで、事業化への展開も期待されます。

図1. フェニルプロパノイドを利用した可分解性バイオマスポリマーの合成スキーム
図1. フェニルプロパノイドを利用した可分解性バイオマスポリマーの合成スキーム

今後の展開

 本研究は、植物資源を利用した、分解可能なポリマーを創出するための新しいコンセプトを提唱した点に大きな意義があります。これにより、フェニルプロパノイドを基盤とした持続可能な高分子設計の可能性を示すことができました。
 今後は、より高い分子量を有するポリマーの合成や分解反応の高効率化を進めることで、実用に適した物性を発現する材料へと発展させることを目指しています。特に、フロー電解や、固体高分子電解質膜を組み込んだ電解技術を利用することで、コスト削減・スケールアップ・高効率化等を視野に入れた、実用的な合成プロセスの構築を進めてまいります。

謝辞

 本研究は文部科学省 科学研究費補助金(課題番号:21H05215、23H04916、24H00394、23K17370)、有機合成科学協会、公益財団法人 池谷科学技術振興財団、公益財団法人 藤森科学技術振興財団、公益財団法人 徳山科学技術振興財団の支援を受けて実施されました。

論文情報

掲載誌 Nature Communication
タイトル Essential Oil-Derived Decomposable Polymers via Cycloaddition Polymerization of Silyl Ether-Linked Phenylpropanoids
著者 Ryo Nagaya, Tatsuya Seko, Kazuhiro Okamoto, Kazuhide Ueno, Mahito Atobe*, Naoki Shida* (長屋 亮, 瀬古 達矢, 岡本 一央, 上野 和英, 跡部 真人, 信田 尚毅)
DOI 10.1038/s41467-025-65707-x新しいウィンドウが開きます

資料

研究者プロフィール

信田 尚毅新しいウィンドウが開きます
大学院工学研究院 准教授

跡部 真人新しいウィンドウが開きます
大学院工学研究院 教授

お問い合わせ先

<研究に関すること>
大学院工学研究院 准教授 信田 尚毅
メールアドレス: shida-naoki-gz ynu.ac.jp

大学院工学研究院 教授 跡部 真人
メールアドレス: atobe ynu.ac.jp

<報道に関すること>
総務企画部リレーション推進課
メールアドレス: press ynu.ac.jp

(担当:リレーション推進課)


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