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鹿の副産物活用事業

命の問題を扱うセンシティブな分野。
様々な壁にぶつかっても、
道を模索しながらあるべき姿を目指します。

渡辺 洋平(ディアベリ―株式会社)

経営学部経営学科

鹿の命を奪わざるを得ないなら、
そのすべてを無駄にしたくない。
地元北海道の身近な問題でした。

私は本当に普通の人間で、「スペシャルになりたい」と中学の頃から起業を夢見ていました。最初はプログラミングを学んで、IT系の起業アイデアを練っては挫折することを繰り返しました。そのたびに落ち込みましたね。

そんな18歳の時、改めて自分の人生に何があるのかを振り返って、生まれ育った北海道のために何かできないかと思い至りました。身の回りを見渡してみたら、増えすぎた鹿の獣害という身近で切実な問題が見えてきたのです。

日本では今、毎年約60万頭以上の鹿が殺されています。車との衝突事故や農作物への被害もあり、生態系維持のためにも鹿は獲らざるを得ません。しかし、獲った鹿の10%程度は利用されるものの、ほとんどは廃棄。解体施設に運ばれた数少ない鹿も約3割しか食肉とならず、内臓や骨や皮はやはり焼却処分されているのです。

「奪わざるを得ない命なら、無駄なくいただくべきなのではないか」。そこから獲られた鹿を活用した鹿革・鹿角製品の企画販売を思い立ちました。

コロナ禍は追い風。
覚悟を決めて法人化するも、
期待をかけたプロジェクトは頓挫した。

大学の授業がオンライン中心になり、どこからでも出席できるようになったコロナ禍は、絶好の準備期間でした。「鹿の廃棄ゼロに挑む」と満を持して行ったクラウドファンディングは当初の目標30万円の366%の110万円超で達成。一気に世界が広がり、人脈ができ、多くの起業家支援プログラムへの参加やメディア露出も叶いました。

そんなときにある上場企業の社長に、「別に金が大事なわけじゃないんやろ。なら、バーンとやったらええんや!」と言われたのです。それで覚悟が決まって、大学3年の冬に法人化しました。

しかし、思うようにいかないことも多く、友人たちが次々と有名企業から内定をもらい始めると焦りから就職へと心が揺れました。さらに、当初革新的だと期待をかけていたプロジェクトが法規制に阻まれて頓挫。これは結構キツかったですね。

ただ、実はクラファンでは炎上を経験しているんです。ギリギリの精神状態へ追い込まれたところから、周囲の応援に支えられて、改めて協力者のみなさんと積み上げてきたものがあります。だからこそ、今回もまた道を模索しながら、一歩一歩進んでいこうと思い直しました。

横国だからこその支援や縁の広がりを得て、
自由に充実した挑戦ができています。

現在、新たに挑んでいるのは鹿の内臓や骨の堆肥化です。知見を深めるため今年は全国を転々としながら大学に通っていましたが、今は長野を拠点にIoT小型堆肥化装置を開発しています。今月中には屋久島の堆肥化施設の方にも相談に行く予定。装置が実現できれば、鹿の内臓を効率的に炭化して肥料にしたり、洗剤などの新たな用途も生まれそうなんです。

こんな風に自由に充実した事業活動ができているのも、大学生のうちに挑戦できたからこそ。横国には多くの起業家支援制度があり、特に弊社は、横浜国立大学発ベンチャーとして本店を大学の中に置いているお陰で、新規アポイントや契約の際も信頼度が違います。

制度面以上に純粋に応援してくれる人もたくさんいます。優秀な学生が多く刺激をもらえますし、最近はOBの起業家の方々も増えてきて思いがけないところでつながりが生まれたりと、横国だからこそ広がったご縁もあちこちにあります。これらを糧に「ディアベリ―のお陰で鹿を丸ごといただくのが当たり前になったね」と言われる未来を目指します。

2023年2月