【プレスリリース】次世代3D集積半導体に向けたハイブリッド接合の新知見
研究のポイント
・次世代3次元集積に用いられるSiCNハイブリッド接合について、接合時のボンドウェーブ伝播、接合後の面内変位、接合強度を300mmウエハで系統的に評価しました。
・N2プラズマでは低温でも高い接合強度が得られる一方で、接合後の面内変位が大きくなり、微細ピッチ接合での重ね合わせ誤差やスケーリング誤差のリスクが高まることを明らかにしました。
・VSFG分光、ゼータ電位測定、STEM-EELS解析により、接合特性の違いがSiCN表面の化学状態の違いに起因することを解明し、今後の微細ピッチハイブリッド接合最適化の指針を提示しました。
概要
横浜国立大学 大学院工学研究院/先端科学高等研究院/総合学術高等研究院の井上史大教授らは、東京エレクトロン九州、SK hynixとの共同研究により、次世代3次元集積に向けたSiCNウエハ直接接合において、表面活性化条件の違いが接合波の伝播、接合後歪み、接合強度に与える影響を明らかにしました。
本研究では、300 mmウエハ上のSiCN膜に対し、N₂またはO₂プラズマによる表面活性化を施し、ボンドウェーブ解析、接合後の面内変位評価、接合強度測定を実施しました。その結果、ボンドウェーブ速度は大きく変わらない一方で、接合後の歪みと接合強度には明確な差が現れました。特に、N₂プラズマでは高い接合強度が得られる一方で歪みが増大し、O₂プラズマでは歪みを抑えた安定な接合が可能であることを示しました。
さらに表面・界面分析により、N₂プラズマでは-NH基や炭素由来種が界面反応を促進して強固な接合をもたらす一方、局所的な歪みも増幅すること、O₂プラズマではSiO₂様の緻密で均一な表面形成により、安定した位置合わせ特性が得られることを明らかにしました。これらの知見は、微細ピッチ化が進むハイブリッド接合の歩留まり向上に向けた重要な指針となります。
本研究成果は国際科学誌「ACS Applied Electronic Materials」(2026年4月20日付)に掲載されました。
社会的な背景
生成AIの急速な普及により、半導体にはこれまで以上に高い情報処理性能、低消費電力化、高密度接続が求められています。こうした要請に応えるためには、複数のデバイスを高密度に接続する3次元集積技術が重要であり、その中核技術の一つがハイブリッド接合です。論文でも、AIハードウェアの進展に向けて、ロジック、メモリ、高密度I/O接続の革新が必要であり、接合技術がその鍵を握ると位置づけています。
一方で、接続ピッチが微細化するほど、接合後のわずかな面内変位やスケーリング誤差が歩留まりや性能に直結するようになります。従来は接合強度やボイド抑制が主な評価対象でしたが、今後は接合した瞬間に生じる動的な現象と、その結果としてのウエハ歪みを同時に理解することが不可欠です。SiCNは低温で高い接合性や信頼性を示す有望な接合絶縁膜として注目されていますが、SiO₂に比べて表面化学が複雑であり、ボンドウェーブや歪みの発生機構には未解明な点が多く残されていました。
研究成果
本研究では、SiCN-SiCN直接接合において、N₂プラズマとO₂プラズマという二つの表面活性化条件を比較し、接合ダイナミクスと接合後特性を包括的に評価しました。
ボンドウェーブ速度はおおむね同程度であった一方、接合後の面内変位はN₂プラズマ条件で大きく、O₂プラズマ条件で小さいことが分かりました。また、250℃アニール後の接合強度は100WのN₂プラズマ条件で最も高く、O₂プラズマではやや低い値を示しました。つまり、高接合強度を追求すると歪みが増え、歪みを抑えると接合強度はやや低下するという、重要なトレードオフが明確になりました。
この違いの起源を明らかにするため、研究グループは新規な評価手法であるHD-VSFG、ゼータ電位測定、STEM-EELSを用いて表面と界面の化学状態を解析しました。その結果、N₂プラズマでは-NH基や炭素系表面種が形成され、これらが水との反応や界面での反応を促進することで、高い接合強度を実現していることが示されました。特に界面にはsp2炭素を含むグラファイト様構造が形成されており、これが接合初期のすべりや反応に影響している可能性が示唆されました。
一方、O₂プラズマでは炭素や窒素成分が抑えられ、SiO₂同様の緻密で均一な-OHリッチ表面が形成されることで、より均質な脱水縮合反応が進み、歪みの少ない接合につながることが分かりました。すなわち、SiCN接合では単に粗さや接合条件だけでなく、表面にどのような官能基や化学構造を作るかが、接合強度と位置合わせ安定性の両方を左右することが本研究で実証されました。
今後の展開
本研究は、SiCNハイブリッド接合において、接合強度と位置合わせ精度の両立には表面化学の最適化が不可欠であることを示しました。今後は、より微細な接続ピッチに対応するために、接合強度だけでなく、接合直後から生じる面内変位や歪みまで含めて最適化するプロセス設計が求められます。
また、本研究で得られた知見は、次世代ロジックやメモリ、さらには多様な3Dチップレット集積に向けた高精度ハイブリッド接合の実現に役立つことが期待されます。論文でも、こうした理解は将来のAIハードウェア進化を支える重要な基盤になると位置づけられています。今後は、界面で生じる化学反応と機械変形の関係をさらに詳細に解明し、マルチスケールな化学-機械連成シミュレーションなどとも組み合わせることで、より高歩留まりな接合技術へ発展していくことが期待されます。
論文情報
| 掲載誌 | ACS Applied Electronic Materials |
|---|---|
| タイトル | Surface Chemistry Effects on Bond Wave Dynamics and Distortion-Induced Scaling Errors during Plasma-Activated Direct Bonding of SiCN |
| 著者 | Ryosuke Sato, Atsushi Nagata, Ryota Ogata, Youngjun Kim, Haeri Kim, Jong Han Shin, Anton Myalitsin, Fumihiro Inoue |
| DOI | 10.1021/acsaelm.6c00446 |
資料
研究者プロフィール
井上 史大![]()
大学院工学研究院/先端科学高等研究院/総合学術高等研究院 教授
お問い合わせ先
<研究に関すること>
横浜国立大学 大学院工学研究院/先端科学高等研究院/総合学術高等研究院 教授 井上 史大
メールアドレス: inoue-fumihiro-ty
ynu.ac.jp
<報道に関すること>
横浜国立大学 総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: press
ynu.ac.jp
(担当:リレーション推進課)

