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【プレスリリース】ナノセルロースで乳化プロセスを蛍光可視化

~次世代の食品・化粧品素材開発に新たな手がかり~

本研究のポイント

・水に分散する蛍光性セルロースナノファイバーを用いて、ピッカリングエマルションの水油界面に着目したリアルタイム観察に成功しました。
・この技術により、乳化の安定化メカニズムの理解を大きく前進させるとともに、食品・化粧品などにおける新しい設計指針を提供するものです。

研究概要

 水と油を混ぜたエマルション(乳化)は、食品、化粧品など幅広い分野で利用されています。その中でも、セルロースナノファイバーによって安定化されるピッカリングエマルションは、環境にやさしい材料として近年注目されています。横浜国立大学 大学院工学研究院 川村 出教授、大学院環境情報研究院 金井典子助教、大学院理工学府化学・生命系理工学専攻 伊藤佑斗氏(修士2年)のグループは、蛍光性のセルロースナノファイバーを用いて水油界面におけるナノファイバーのふるまいを顕微鏡でリアルタイムに観察することに初めて成功しました。従来は静的な評価に依存していたエマルション形成過程の一端を、時間軸を含めて直接観測することが可能となりました。さらに、ピッカリングエマルションの安定化メカニズムの理解を大きく前進させるとともに、食品・化粧品などにおける新しい材料設計の指針を提供するものです。
 本研究成果は、アメリカ化学会(ACS)が発行する物理化学分野の最先端かつ重要な研究成果に関する学術雑誌Journal of Physical Chemistry Lettersに受理され、2026年4月22日に公開され、Supplementary Coverにも採択されました。

研究背景

 水と油を混ぜたエマルション(乳化)は、食品、化粧品など私たちの身の回りの幅広い分野で利用されています。中でも、セルロースナノファイバー(CNF)[用語1]などの微粒子によって安定化されるピッカリングエマルション[用語2]は、環境にやさしい材料として近年注目されています。このようなエマルションの安定性や機能性を左右する「油と水の界面での粒子挙動」の理解は非常に重要です。しかしこれまでの研究では、色をつけて観察する方法(染色)や、油滴の大きさや粘度などの全体的な測定に限られており、微粒子が安定化のためにどのように界面付近で動いているのかという“過程”を直接観察することは困難でした。そのため、エマルションがどのように安定化されるのかについては、多くがモデルによって推測され、詳細な理解には至っていませんでした。

今回の成果

 横浜国立大学大学院工学研究院の川村出教授のグループは、これまでに植物由来のナノ素材であるCNFに蛍光分子を結合させた、青く光るCNF(Acd-CNF)[用語3]を開発してきました。この材料は、水中で分散したまま乳化安定剤として用いられ、CNF自体の位置や動きを蛍光変化として捉えることができるという特徴を有しています。今回、この新しい材料を用いることで、水と油の境界面におけるナノファイバーのふるまいを、共焦点レーザー顕微鏡[用語4]でリアルタイムに観察することに初めて成功しました。
 観察の結果、界面吸着エネルギーの異なるナノファイバー(TEMPO触媒酸化CNF : TOCNF)[用語5]と(Acd-CNF)は、単に油滴表面を一様に覆うのではなく、時間とともに界面に集まり、重なり合いながら層のような構造を形成していくことが明らかになりました( 図1)。このような動的な過程はこれまで直接観察することが難しく、蛍光標識化したCNFを用いた手法により初めて詳細に捉えられました。
 さらに、蛍光のエネルギー移動現象(FRET)[用語6]を利用することで、水油界面付近でのナノメートルレベルでのCNFと油成分の距離や配置も可視化できることを示しました。これにより、物質同士がどれくらい近づいているのかという分子レベルの情報も取得可能となりました。
 本研究成果をまとめた論文は、アメリカ化学会(American Chemical Society) が発行する物理化学分野の最先端かつ重要な研究成果に関する学術雑誌Journal of Physical Chemistry Lettersに受理され、2026年4月22日に公開され、Supplementary Coverにも採択されました。

図1 (上) TOCNFで安定化されたピッカリングエマルション(油を赤色染色剤で染色済み)に対し、青色に光るAcd-CNF水分散液を注入して観察した際の模式図。
(下) 共焦点レーザー顕微鏡による観察結果。時間経過とともに、Acd-CNFが水と油の界面に二次的に集まり、吸着していることが確認された。左から油滴(赤色)、Acd-CNF(青色)、それらを重ねた画像。タイムラプス観察は約530秒間行った。
図1 (上) TOCNFで安定化されたピッカリングエマルション(油を赤色染色剤で染色済み)に対し、青色に光るAcd-CNF水分散液を注入して観察した際の模式図。
(下) 共焦点レーザー顕微鏡による観察結果。時間経過とともに、Acd-CNFが水と油の界面に二次的に集まり、吸着していることが確認された。左から油滴(赤色)、Acd-CNF(青色)、それらを重ねた画像。タイムラプス観察は約530秒間行った。

今後の展開

 本研究によって、従来は静的な評価に依存していたエマルション形成過程の一端を、時間軸を含めて直接観測することが可能となりました。さらに、乳化の安定化メカニズムの理解を大きく前進させるとともに、食品・化粧品などにおける新しい材料設計の指針を提供するものです。今後は、さまざまなナノ粒子や条件に応用することで、より高機能で持続可能なエマルションの開発につながることが期待されます。

謝辞

 本研究は、JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点(JPMJPF2111)、 CREST 「自在配列設計ペプチドによるナノポアシステムの構築」(JPMJCR21B2)および科研費 若手研究(JP25K18276)、研究活動スタート支援(JP24K23119)、学術変革領域研究(A)(JP21H05229)などの支援を受けて実施されたものです。

用語解説

[用語1]
セルロースナノファイバー(CNF):植物の細胞壁の主成分であるセルロースを機械的・化学的な処理によって、ナノメートルスケールまで解繊した非常に細い繊維。高強度、軽量性、乳化安定性といった様々な特性を有するため、近年非常に期待されている次世代素材です。

[用語2]
ピッカリングエマルション:水と油のように本来は混ざらない液体を混ぜたとき、その界面をナノサイズの固体微粒子が殻のように覆うことで分離を防ぐ仕組みのエマルション。一般的な乳化では界面活性剤が使われるが、ピッカリングエマルションでは粒子が直接界面を安定化するため、より高い安定性や、環境にやさしい材料設計が可能とされています。さらに、油と水の割合や粒子の性質によって、構造や安定性は大きく変化します。

[用語3]
Acd-CNF:青色蛍光色素であるアクリドン-2-イル-アラニン(Acd)をTEMPO触媒酸化CNFに結合させた物質。Acdは、分子体積が蛍光色素の中で小さく(222Å3)、水中で非常に強く光る性質を有します。

[用語4]
共焦点レーザー顕微鏡:レーザー光を使って試料の特定の焦点面だけを高解像度で観察できる顕微鏡である。本研究のような蛍光標識した高分子の試料中での分布や局在を調べることができます。

[用語5]
TEMPO触媒酸化法:TEMPOは、2,2,6,6テトラメチルピペリジン-1-オキシルと呼ばれる常温常圧で安定な有機ニトロラジカル。触媒量のTEMPOを含む水溶液中でセルロースを反応させ、軽微な解繊処理をすることでセルロースナノファイバーを生成することができる。2006年に東大の磯貝 明特別教授、齊藤 継之教授らの研究チームが、結晶性のセルロースミクロフィブリルの表面でカルボキシル化されていることを見出し、静電的な反発により軽微な物理的処理でセルロースをナノ化できることを報告しました。

[用語6]
フェルスター共鳴エネルギー移動:蛍光を発するエネルギーの高い状態にある分子から、別な蛍光分子にエネルギーが移動する現象をフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)と呼びます。分子同士が約10ナノメートル未満に近づいたときにのみこの現象が生じるため、物質どうしの距離分布の目安となります。

論文情報

掲載誌 Journal of Physical Chemistry Letters
タイトル Visualizing Dynamic Interfacial Assembly in Pickering Emulsions with Fluorescent Cellulose Nanofibers
著者 Yuto Ito, Noriko Kanai, Izuru Kawamura*
DOI 10.1021/acs.jpclett.6c00477

資料

研究者プロフィール

川村 出新しいウィンドウが開きます
大学院工学研究院 教授

金井 典子新しいウィンドウが開きます
大学院環境情報研究院 助教

お問い合わせ先

<研究に関すること>
横浜国立大学 大学院工学研究院 教授 川村 出
メールアドレス: kawamura-izuru-wxynu.ac.jp

<報道に関すること>
横浜国立大学 総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: pressynu.ac.jp

(担当:リレーション推進課)


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