【プレスリリース】量子中継の実装へ向けた周波数多重量子メモリ・量子光源接続システムの開発
本研究のポイント
・量子中継は、量子コンピュータの分散化やグローバル量子暗号通信実現に
必須の長距離量子通信基盤です。
・量子中継は、量子メモリ・量子光源などの要素技術から構成されます。
・本研究では実用的な通信レート獲得に必須である通信の多重化に向け、我々の知る限り世界最高周波数多重度での要素技術統合に成功しました。
・周波数多重量子中継技術の実装へとつながる成果です。
研究概要
横浜国立大学大学院工学研究院/総合学術高等研究院/先端科学高等研究院の堀切智之教授らのグループは、量子通信の長距離化に有力な方式である周波数多重量子中継の実現に向け、量子メモリ・量子光源接続システムの開発に成功しました。本成果は、同グループに所属していた立石大輝さん(元・理工学府大学院生)らによる研究成果であり、LQUOM株式会社との共同研究によるものです。
量子通信は、量子暗号方式によるセキュリティの確保や分散量子計算など、多様な応用を可能にする次世代通信基盤です。長距離かつ高レートの量子通信を実現するうえで、周波数多重方式は重要な技術です。この方式では、周波数多重に対応し、光ファイバーで低損失に伝送可能な量子光源と、光子を保存する周波数多重量子メモリを開発し、それらを安定に接続して長期運用する必要があります。今回開発したシステムはこれらの要件を満たし、世界最高となる周波数多重度83を達成しました。本成果は、量子通信の長距離化およびグローバルな量子通信網である量子インターネットの実現に向けた技術基盤を前進させるものです。
本研究は、内閣府ムーンショット型研究開発事業(JPMJMS226C)、総務省「量子インターネット実現に向けた要素技術の研究開発」(JPMI00316)、NEDOディープテックスタートアップ支援事業の支援にて行われました。 本研究成果は、国際科学誌「Applied Physics Letters」にて2026年5月28日に掲載されました。
社会的な背景
量子通信は、完全な情報セキュリティを保証する通信方式として、インターネットを初めとした通信への利用のみならず、量子コンピュータのクラウド使用の安全性保証にも必要な技術として期待されます。さらに、グローバル量子通信ネットワーク「量子インターネット」では、様々な量子デバイス(量子コンピュータ、センシングデバイスなど)が結ばれることにより、次世代の情報通信基盤となることが期待されます。量子インターネットは、量子状態を送信するインフラであり、そのための基礎が量子もつれ(エンタングルメント)の共有能力です。
地球上に張り巡らされた光ファイバネットワークに導入された量子通信によって、この量子もつれ共有の長距離実装が待望されていますが、長距離化には量子中継技術が必要になります。
これまで様々な量子中継方式が提案されてきましたが、その中でも周波数多重量子中継は通信レートを大幅に向上できる有力な手法として注目されています。量子通信は極めて微弱な光子を送る性質上、高い通信レートが得られない弱点があり、多重化によって克服することが期待されるためです。周波数多重量子中継実現には、量子中継器に搭載される量子メモリ、および光ファイバ通信路を伝送する光子を発生する光子源に周波数多重対応が必要となります。そこで私たちは、高い周波数多重度を持つ量子光源と量子メモリを開発し、そのうえでそれらの接続を安定に長時間確保するシステムを実現しました。これらが量子中継に搭載されたときに、安定な量子中継器の運用ができる能力につながるためです。
研究成果
今回、研究グループは周波数多重性をもつ量子光源を開発しました。この量子光源は光子対(2つの光子)を同時生成するものであり、量子中継に搭載されます。光子対のうち一方の光子は周波数多重量子メモリと結合するために用いられ、もう一方は光ファイバを通じて送られて遠方の量子中継ノードとの間に接続を確立するために使用されます。光子対生成を共振器内で励起することにより、共振器によって決定される周波数多重性をもち、かつそれらの多重モードにおいて高い光子生成レートを得られるようになります。
また、本研究ではPr:YSOという希土類プラセオジムの添加された結晶を量子メモリ媒質として用いました。この結晶の吸収スペクトルをレーザーで制御することで、我々の知る限り世界最高の量子メモリ周波数多重度83を達成しました(図1)。これらの周波数多重性をもつ量子光源と量子メモリを接続(図2が接続結果のデータ)することで、周波数多重量子中継の基幹部が構成されます。
横軸が光周波数、縦軸が光の吸収率に対応。上図の細い溝がそれぞれ量子メモリの周波数モードに対応。いくつかを拡大したものが下図。櫛状構造が量子メモリとして機能する。
右側のピークがメモリに吸収・保存されたのちに、再生された光子信号。
今後の展開
本開発システムは、我々が開発している周波数多重量子中継の基幹部分を構成します。今後は、本開発システムを量子通信路を介して2単位接続すること、およびさらにそれらを接続することによって周波数多重量子中継の実証に取り組む予定です。これにより長距離かつ高通信レートをもつ長距離量子通信の重要なステップとなることが期待されます。
用語解説
[用語1]
量子:光の最小単位である光子や、物質を構成する原子・電子などは量子である。波と粒子双方の性質を併せ持ち、量子通信においては、主に光が通信路(光ファイバーなど)伝送に用いられ、電子などが量子メモリとして用いられる。
[用語2]
量子通信:単一光子や量子もつれ(エンタングルメント)光子対などの量子を利用することで、安全な暗号通信が可能となる通信方式。
[用語3]
量子中継:量子通信の長距離化には、中継技術が必要となる。量子通信に必要な光は大変微弱であり、光ファイバで送っても、距離とともに届く確率が指数関数的に減衰するからである。
このため、例えば中継なしに 1000km遠方に届けるのは困難になる。そこで、光ファイバ伝送を短い距離に区切って行い、量子メモリ物質への保存などの技術を用いて距離延長を行う量子中継技術が研究されている。
[用語4]
量子もつれ(エンタングルメント):多体間の量子力学的な相関。例えば2つの物体 A、Bを、離れた2地点にいるユーザー1と2に片方ずつ配分した場合、ユーザー1が A を受け取れば、ユーザー2は B を受け取ったとわかる。これだけなら古典的な相関である。
しかし、例えば量子もつれにある2光子があり、ユーザー1と2に分配した場合、ユーザー1が偏光板を通して出てきた光子を観察した結果水平偏光であるならば、ユーザー2が同様に偏光板を通した場合も水平偏光である。これは上の古典相関と同じであるが、加えて彼らが円偏光状態を見た時も完全に相関が現れる。つまり、ユーザー1が、やってきた光子が左回り円偏光か、右回り円偏光かを測った場合、同様に円偏光の測定をしたユーザー2も 100%相関した結果を得る。
このように、水平偏光で見ても円偏光でみても完全な相関がユーザー1と2の測定結果に現れるのが(2体間の最大)量子もつれの特徴的な性質である。
量子もつれをまず短距離間で生成し、段々と距離を伸ばしていくのが量子中継の代表的な手法である。
[用語5]
量子メモリ:伝送された光子の量子状態を物質中の電子スピンなどの量子状態に置き換え、長時間保存するデバイス。
論文情報
| 掲載誌 | Applied Physics Letters, 128, 214003 (2026) |
|---|---|
| タイトル | Quantum Storage of Frequency-Multiplexed Photons Exhibiting Nonclassical Correlations with Telecom C-Band Photons |
| 著者 | Hiroki Tateishi, Daisuke Yoshida, Tomoki Tsuno, Takuto Nihashi, Ryoma Komatsudaira, Daisuke Akamatsu, Feng-Lei Hong, Koji Nagano, and Tomoyuki Horikiri |
| DOI | 10.1063/5.0313240 |
資料
研究者プロフィール
堀切 智之![]()
大学院工学研究院/総合学術高等研究院/先端科学高等研究院 教授
お問い合わせ先
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横浜国立大学 大学院工学研究院/総合学術高等研究院/先端科学高等研究院 教授 堀切 智之
メールアドレス: horikiri-tomoyuki-bh
ynu.ac.jp
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横浜国立大学 総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: press
ynu.ac.jp
(担当:リレーション推進課)

