【プレスリリース】気候変動には及び腰、でも生物多様性は別?
本研究のポイント
・気候変動対策への支持は世界観によって分かれるが、生物多様性保全策では分かれにくいことを、全国調査で解明
・気候変動と生物多様性を同じ枠組みで比較し、世界観と自然観の両面から統合的に分析した先駆的な研究
・社会的対立を避けた環境政策の合意形成や、政策コミュニケーションへの応用が期待
研究概要
横浜国立大学大学院環境情報研究院の高木彩准教授と中臺亮介講師の研究グループは、文化的世界観(階層主義-平等主義、個人主義-共同体主義)と自然に対する価値観(道具的価値、内在的価値、関係価値)が、気候変動および生物多様性損失に関するリスク認知や政策支持とどのように関連しているのかを明らかにしました。
近年、気候変動対策は社会的な対立の影響を受けやすいことが指摘されていますが、生物多様性保全はより幅広い支持を得られる可能性が議論されています。本研究は、日本人1,133名を対象とした2波構成のオンライン調査により、世界観や自然観の違いが政策領域(気候変動/生物多様性)によってどのように異なる形で政策支持に結びつくのかを実証的に検討したものです。
本研究成果は、国際科学雑誌「Communications Sustainability」(2026年7月11日付)に掲載されました。
社会的な背景
気候変動や生物多様性の喪失への関心が高まる一方で、気候変動対策はしばしば社会的・政治的な分断の影響を受け、人々の世界観によって賛否が大きく分かれることが知られています。文化的世界観(人々が社会や世界をどのように理解し、何を価値あるものと考えるかについての基本的な信念や価値観)[用語1]に注目する文化的認知理論(Cultural Cognition Theory)[用語2]によれば、階層主義的な世界観を持つ人ほど、規制や対策の必要性を示すリスク情報を脅威として捉えやすく、気候変動対策への支持が低くなりやすいとされています。
一方、生物多様性の保全は、気候変動対策に比べて社会的な対立の影響を受けにくく、より広い社会的支持を得やすい可能性があることに着目して実証的に検証をおこないました。実際に、複数国を対象とした調査では、生物多様性保全の国際目標「30by30」への支持が8割を超えるとの報告もあります。また、近年の生物多様性研究では、自然の価値を「道具的価値(人間にとっての実利)[用語3]」「内在的価値(自然そのものの価値)[用語4]」「関係価値(人と自然との関係性)[用語5]」の3つの観点から捉える考え方が提案されています。こうした生態学分野での自然観に関する研究知見と、リスク学分野などで扱われてきた文化的世界観との関連は、十分に検討されていないという課題も研究実施の背景にありました。
本研究グループは、こうした環境政策の問題について生態学とリスク学の知見に基づき、心理学の調査手法を用いて、気候変動と生物多様性という2つの政策領域を同時に扱い、文化的世界観と自然観がそれぞれの政策支持にどのように、そしてどの程度異なる形で関連するのかを文理融合型研究により、統合的に検証しました。
研究成果
本研究では、2025年6月に日本全国の1,133名を対象とした2波構成のオンライン調査を実施し、文化的世界観(階層主義-平等主義、個人主義-共同体主義)、自然への価値観(道具的価値、内在的価値、関係価値)、科学的知識、気候変動・生物多様性損失に関するリスク認知、および気候変動対策・生物多様性保全策(気候変動関連/単独)への支持の関連を、構造方程式モデリング[用語6]を用いて分析しました。
その結果、階層主義的な世界観を持つ人ほど、気候変動リスクを低く見積もり、気候変動対策への支持も低い傾向が一貫して示されました。一方、この負の関連は生物多様性損失のリスク認知では弱く、生物多様性保全策単独への支持では統計的に有意な関連が見られませんでした。つまり、同じ「階層主義的な世界観」であっても、対象が気候変動対策か生物多様性保全策かという政策領域の違いによって、支持との関連の程度が異なることが明らかになりました。
また、自然との関係性を重視する関係価値は、気候変動・生物多様性のいずれのリスク認知・政策支持とも一貫して正の関連を示しました。自然そのものに価値を置く内在的価値は、気候変動のリスク認知、生物多様性喪失のリスク認知と政策支持とはそれぞれ正の関連を示しましたが、気候変動対策への支持とは関連が見られませんでした。
今後の展開
本研究の知見は、気候変動対策が世界観に基づく抵抗を受けやすいのに対し、生物多様性保全はより幅広い世界観の人々から支持を得られる可能性を示すものであり、政治的に受け入れられやすい環境政策を設計する上での基礎的な知見になることが期待されます。
今後は、本研究で見られた環境政策の問題領域に依存する関連の違いがどの程度一般化できるのかを明らかにする必要があります。また、健康や食料安全保障など他の社会的課題への応用も今後の検討課題です。
謝辞
本研究は、一般財団法人新技術振興渡辺記念会の科学技術調査研究助成(R7-611)および日本学術振興会科学研究費助成事業(24K06441)の支援を受けて実施されました。
用語解説
[用語1]
文化的世界観(階層主義-平等主義/個人主義-共同体主義):社会の秩序や人と人との関係をどのように捉えるかという、個人が持つ価値志向。階層主義は社会的な序列や規律を重視する考え方、平等主義は対等な関係や機会の平等を重視する考え方を指す。また、個人主義は個人の自律性や自己決定を重視する考え方、共同体主義は共同体への帰属や相互扶助、集団の利益や調和を重視する考え方を指す。
[用語2]
文化的認知理論(Cultural Cognition Theory):人がリスクに関する情報をどのように解釈するかは、その人が持つ文化的世界観によって影響を受けるとする理論。同じ情報でも、世界観によって異なる受け止め方をすることを説明する。
[用語3]
道具的価値:自然が人間にとってどの程度役に立つか、すなわち資源としての有用性に基づいて自然の価値を捉える考え方。
[用語4]
内在的価値:自然は人間にとって役に立つかどうかにかかわらず、それ自体に価値があるとする考え方。
[用語5]
関係価値:自然と人がどのような関係を築いているか、その関係のあり方に基づいて自然の価値を捉える考え方。
[用語6]
構造方程式モデリング(SEM):複数の変数間の関係を、直接的な経路と間接的な経路(媒介変数を介した経路)の両方を含めて統計的に検証する分析手法。本研究ではpiecewise SEMという手法を用いた。
論文情報
| 掲載誌 | Communications Sustainability |
|---|---|
| タイトル | Support for climate and biodiversity policies differs across cultural worldviews in Japan |
| 著者 | Aya Takagi, Ryosuke Nakadai |
| DOI | 10.1038/s44458-026-00110-1 |
資料
研究者プロフィール
髙木 彩![]()
大学院環境情報研究院 准教授
中臺 亮介![]()
大学院環境情報研究院 講師
お問い合わせ先
<研究に関すること>
横浜国立大学 大学院環境情報研究院 准教授 髙木 彩
メールアドレス: takagi-aya-fc
ynu.ac.jp
横浜国立大学 大学院環境情報研究院 講師 中臺 亮介
メールアドレス: nakadai-ryosuke-pt
ynu.ac.jp
<報道に関すること>
横浜国立大学 総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: press
ynu.ac.jp
(担当:リレーション推進課)

