【プレスリリース】極端な干ばつ下、生物多様性の生産力への効果は乾燥した草原ほど大きい
本研究のポイント
・世界75地点の生物多様性実験を統合し、異常気象下で植物生産力に対する多様性効果がどのような場所で大きくなるかを解明
・干ばつが極端な年に、より乾燥した草原で生物多様性の生産力向上効果が最大
・その効果は、特定の種への依存ではなく、さまざまな種どうしの役割分担や助け合いによる「補完効果」の強化によって生じていた
・気候変動時代に、どのような場所で、生物多様性の保全・回復が生態系の働きに大きな利益をもたらすかを示す新たな科学的根拠を提供
研究概要
横浜国立大学大学院環境情報研究院・総合学術高等研究院の佐々木雄大教授、ドイツ統合生物多様性研究センター(German Centre for Integrative Biodiversity Research: iDiv)・横浜国立大学総合学術高等研究院のNico Eisenhauer IMS招聘教授を中心とする国際共同研究グループは、世界の草原・森林で行われてきた75の生物多様性実験の長期データと日別の気象記録を統合解析し、異常気象のもとで生物多様性が生態系の生産力を最も高める条件を明らかにしました。とくに、干ばつが極端な年には、より乾燥した草原ほど生物多様性が生産力を強く高めることが分かりました。さらに、その効果は、特定の優占種に依存するのではなく、種どうしの役割分担や助け合いによる補完効果の強化によって生じていることが示されました。一方で、森林では同様の傾向は明瞭には検出されませんでした。また、極端な高温日の多い年については、草原か森林か、あるいはその場所の乾燥度によって、生物多様性の効果が大きく変わる傾向は確認されませんでした。本研究は、気候変動時代において、どのような場所で生物多様性の保全・回復が生態系の働きに大きな利益をもたらすのかを示す、新たな科学的根拠を提供しました。
本研究成果は、国際学術誌「Nature Ecology & Evolution」に掲載されました(2026年7月15日日本時間午後6時)。
研究成果
気候変動に伴い、干ばつや熱波などの異常気象の頻度や強度が世界各地で増加しています。こうした気候の変動性が増すなかで、生物多様性が生態系機能(一次生産を通した炭素固定、地表面の安定、水循環の調節など)を支える役割は、ますます重要になると考えられています。これまでの研究は、生物多様性が平均的な環境条件のもとで生産力を高めることを示してきましたが、異常気象のもとでその効果がどう変わるのか、また場所ごとの乾燥度や土壌条件の違いによってどのように変化するのかは十分に明らかにされていませんでした。とくに、どのような場所でその効果が最も強く現れるのかを明らかにすることは、生態学の基礎理論を前進させるだけでなく、気候変動への適応策を考えるうえでも重要です。本研究では、世界の草原と森林75地点で実施されてきた生物多様性実験[用語1]の長期データを集約し、それに対応する日別降水量や日最高気温などの気象データと統合して解析を行いました。干ばつの強さ、極端な高温、水収支を表す指標を用いて年ごとの異常気象を定量化するとともに、植物多様性が一次生産量に与える効果を、植物種どうしの役割分担や助け合いを示す相補性(補完)効果と、生産性の高い特定種の優占による選択効果に分けて評価しました。
解析の結果、最も明瞭なパターンは、極端な干ばつ年には、より乾燥した草原ほど生物多様性が生産力を強く支えるというものでした(図1)。この生物多様性による効果は、生産性の高い優占種の寄与ではなく、種どうしの補完効果の強化によって説明されました。これは、もともと水制限が強い場所ほど、干ばつ時に種どうしが異なる資源を使い分けたり、互いを助け合ったりすることで、植物の生産力を維持しやすくなることを示しています。これに対し、比較的乾燥の弱い草原では、干ばつ下で選択効果が強まり、少数の生産性の高い種の寄与が相対的に大きくなる傾向が見られました。
一方で、森林では同様の傾向は明瞭には検出されませんでした。ただし、これは森林で生物多様性が重要でないことを意味するわけではありません。今回の森林データは草原よりも実験サイト数が少なく、観測の時間解像度も粗いため(2年以上の観測間隔のデータもある)、極端な気象現象に対する樹木の応答の遅さや遅れを十分に捉えられなかった可能性があります。また、極端な高温日の多い年に対しては、草原・森林のいずれでも、乾燥度に応じて生物多様性の効果が大きく変わる明瞭な傾向は確認されませんでした。さらに、土壌栄養条件の違いは、極端な干ばつや高温のもとで、生物多様性の効果の違いにはつながりませんでした。これらの結果は、気候ストレスが強まると、場所の土壌栄養条件よりも水分条件が生物多様性の生産力への効果を左右する主要因になることを示唆しています。
本研究の意義と今後の展開
本研究の最大の貢献は、「生物多様性は重要である」という一般論を一歩進めて、どこで、どの異常気象のもとで、その効果が最も強く現れるのかを示した点にあります。今回の結果は、気候変動時代の生態系管理や自然再生において、より乾燥した草原で多様性を保全することが大きな機能的利益をもたらす可能性を示します。つまり、生物多様性は一律に効果があるだけではなく、とくに強く効く条件があるということです。これは、生態系の保全や再生に使える限られた予算や労力を、どこに優先的に配分すべきかを考えるうえで、実践的な意味を持ちます。
本研究で対象とした生物多様性実験は、主にヨーロッパと北米に集中しており、非常に乾燥した草原、とくに中央アジアのステップやアフリカのサバンナ、そして南半球の多くの地域は十分にカバーされていません。より強い乾燥条件の場所では、極端な干ばつや熱波が起こると、生物多様性効果がむしろ弱まる可能性もあります。今後は、こうした地域で比較可能な生物多様性実験を拡充し、森林についても、より長期で高頻度の観測を行っていく必要があります。本研究はその出発点として、異常気象下で生物多様性が最も強く機能する条件を世界規模で初めて明確に示しました。
謝辞
本研究は、日本学術振興会科学研究費(19KK0393・22H03791・24K03127・26K03130)などの支援を得て、実施されました。
用語解説
[用語1]
生物多様性実験:生物多様性実験とは、植物(植物以外も対象になります)の種数や組み合わせを、播種や移植によって人為的に変えた区画をつくり、その違いが生態系の働きにどう影響するかを調べる実験です。たとえば、1種だけを育てる区画や、数種を混ぜて育てる区画を用意し、それぞれで植物の生産力がどう変わるかを比較します。これにより、自然界におけるさまざまな環境要因の影響を切り分けながら、「植物の多様さ」そのものが生態系にどのような効果をもたらすのかを因果的に確かめることができます。
論文情報
| 掲載誌 | Nature Ecology & Evolution |
|---|---|
| タイトル | Biodiversity effects under climate extremes intensify with aridity in grasslands but not forests |
| 著者 | Takehiro Sasaki, Daniela Hoss, Yuanyuan Huang, Yuki Iwachido, Liting Zheng, Luis Abdala-Roberts, Eric Allan, Harald Auge, Nadia Barsoum, Jürgen Bauhus, Christel Baum, Carl Beierkuhnlein, Friderike Beyer, Pedro Brancalion, Seraina L. Cappelli 他 |
| DOI | 10.1038/s41559-026-03130-1 |
資料
研究者プロフィール
佐々木 雄大![]()
大学院環境情報研究院/総合学術高等研究院 教授
お問い合わせ先
<研究に関すること>
横浜国立大学 大学院環境情報研究院/総合学術高等研究院 教授 佐々木 雄大
メールアドレス: sasaki-takehiro-kw
ynu.ac.jp
<報道に関すること>
横浜国立大学 総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: press
ynu.ac.jp
(担当:リレーション推進課)

