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【プレスリリース】熱平衡で現れる光の超放射

鏡が生み出す新しい光と磁石

本研究のポイント

・外部からエネルギーを注ぎ続ける通常のレーザーとは異なり、熱平衡状態で巨視的な光の秩序が現れる「超放射相転移」を、通常は有限温度で相転移を示さない1次元古典スピン鎖でも、共振器光子と結合すると相転移が生じ得ることを理論的に示しました。
・物質内部の相互作用も含む形での可解な超放射模型の構築は初めての結果です。
・磁化、光子数、臨界温度を解析的に導出し、光と物質の強結合系における平衡相転移を今後さらに深く理解するための基準となる理論模型を与えました。

研究概要

 大竹峻太郎(横浜国立大学理工学部/東京大学大学院総合文化研究科)と馬場基彰准教授(横浜国立大学大学院工学研究院/総合学術高等研究院)らは、光と物質が強く相互作用する系において、熱平衡状態で巨視的な光の秩序が現れる仕組みを、厳密に解ける理論模型により明らかにしました。
 本成果は、光と物質の強結合系における平衡相転移の理解を深めるものであり、将来的には、熱平衡状態で巨視的な光の秩序を制御する新しい量子光技術の基礎につながることが期待されます。本研究成果は、国際学術誌「Physical Review Research」(2026年5月11日)に掲載されました。

図1 単体では相転移(状態変化)を示さない物質(スピン系)が量子効果を増大させる鏡(共振器)で挟むことで、光子が本来不可能な長距離の相互作用を創発する様子
図1 単体では相転移(状態変化)を示さない物質(スピン系)が量子効果を増大させる鏡(共振器)で挟むことで、光子が本来不可能な長距離の相互作用を創発する様子

社会的な背景

 レーザーは、情報通信、精密計測、加工、医療、量子技術など、現代社会を支える幅広い分野で利用されています。レーザー光の特徴は、多数の光子がそろった位相を持ち、巨視的な光として振る舞うことにあります。
一方で、通常のレーザー発振は、外部からエネルギーを供給し続ける非平衡状態に依存しています。近年、光を共振器[用語1]に閉じ込め、物質と強く相互作用させる共振器量子電磁力学や超強結合系の研究が進むなかで、外部からのエネルギー供給に依存せず、熱平衡状態[用語2]で光の秩序が自発的に現れる「超放射相転移[用語3]」が注目されています。
 超放射相転移を理解するためには、光と物質の結合だけでなく、物質内部の相互作用がどのような役割を果たすかを明らかにする必要があります。しかし、相互作用を含む多体系は一般に解析が難しく、基準となる単純で厳密に解ける模型の存在が求められていました。本研究は、この課題に対して、1次元古典スピン鎖と共振器光子という最小限の構成から、有限温度の超放射相転移を解析的に扱える枠組みを与えるものです。

研究成果

 本研究で考えたのは、1次元に並んだ古典イジングスピン鎖(1次元イジング模型[用語4])が、単一の共振器光子モードと結合した模型です。スピン鎖では、それぞれのスピンが上向きまたは下向きの2状態を取り、隣り合うスピン同士が相互作用します。1次元で短距離相互作用のみを持つ場合、この系は有限温度で磁気相転移を示しません。
 私たちは、共振器光子との結合を含むハミルトニアンを解析し、光子自由度を取り除いた有効スピン模型を導きました。その結果、共振器光子は、スピン間に全結合型の強磁性的相互作用を誘起することが分かりました。つまり、各スピンは隣のスピンだけでなく、光子を介して系全体のスピンと相互作用するようになります。
 この光子を介した相互作用により、1次元スピン鎖であっても有限温度の相転移が可能になります。さらに、この全結合型相互作用[用語5]は熱力学極限で厳密に平均場的に扱うことができ、問題全体は「有効磁場中の1次元模型」に写像されます。1次元模型の厳密解を用いることで、相転移に伴う磁化、光子数、臨界温度を解析的に求めることができました。
 本研究の意義は、複雑な光と物質の集団現象を、単純で厳密に解ける模型として示した点にあります。これにより、より複雑な実験系や材料系を考える際の出発点となる、見通しのよい理論的基準が得られました。

図2 低温・共振器強結合領域で超放射相が出現し、相転移が起きることを発見
図2 低温・共振器強結合領域で超放射相が出現し、相転移が起きることを発見

今後の展開

 本研究は、有限温度の超放射相転移を厳密に扱える単純な理論模型を与えるものです。このような模型は、より複雑な光-物質強結合系を理解するための基準となります。
今後は、超伝導量子ビット配列や、1次元磁性体を共振器と結合させた系などで、同様の機構を検証できる可能性があります。論文では候補材料としてCoNb2O6のような1次元磁性体を挙げており、スピン鎖内部の相互作用と同程度の周波数を持つサブテラヘルツ領域の共振器を用いることが、実験実現に向けた一つの方向性として考えられます。
 実際の実験系では散逸なども重要になります。本研究は、これらの効果を加える前の基礎的な熱平衡ベンチマークを与えるものです。今後、より具体的な材料や共振器設計を取り入れた研究が進むことで、熱平衡状態で光の秩序を制御する新しい量子光技術への展開が期待されます。

謝辞

 本研究は、光科学技術研究振興財団、および日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(課題番号:JPJSJRP20221202、JP24K21526、JP25K00012、JP25K01691、JP25K01694)の支援を受けて実施されました。

用語解説

[用語1]
共振器:光を特定の空間領域に閉じ込める構造。共振器中では、物質と光の相互作用を強めることができます。

[用語2]
熱平衡状態:外部からエネルギーを供給し続けなくても、温度などの熱力学量で記述できる状態。超放射相転移では、この熱平衡状態で光の秩序が生じます。

[用語3]
超放射相転移:多数の原子、スピン、量子ビットなどが共振器中の光と集団的に相互作用することで、熱平衡状態において巨視的な電磁場が自発的に現れる相転移。通常のレーザー発振とは異なり、反転分布や外部駆動に依存しない点が特徴です。

[用語4]
1次元イジング模型:各格子点に上向きまたは下向きの2状態を取るスピンを置き、それらの相互作用を考える統計物理学の基本模型。1次元で短距離相互作用のみを持つ古典模型は、有限温度で磁気相転移を示さないことが知られています。

[用語5]
全結合型相互作用:系の各要素が、近くの要素だけでなく、系全体のすべての要素と相互作用すること。本研究では、共振器光子を介してスピン間に全結合型の強磁性的相互作用が生じます。

論文情報

掲載誌 Physical Review Research
タイトル Exactly solvable phase transition in a cavity-coupled one-dimensional Ising chain
著者 Shuntaro Otake, Motoaki Bamba
DOI 10.1103/fxml-nv46

資料

研究者プロフィール

馬場 基彰新しいウィンドウが開きます
大学院工学研究院/総合学術高等研究院 准教授

お問い合わせ先

<研究に関すること>
横浜国立大学 大学院工学研究院/総合学術高等研究院 准教授 馬場 基彰
メールアドレス: bamba-motoaki-pcynu.ac.jp

<報道に関すること>
横浜国立大学 総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: pressynu.ac.jp

(担当:リレーション推進課)


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