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【プレスリリース】3日間連続の航空機観測で捉えたモンスーンジャイアの実態(速報)

―台風第24号の特異な進路と伊豆諸島の記録的大雨 との関連を示唆する観測結果―

発表のポイント

●9月上旬、日本の南海上では、モンスーンジャイアと呼ばれる非常に大きな反時計回りの渦が形成されました。この詳細な構造を航空機により3日間連続で直接観測することに成功しました。このようなモンスーンジャイアの連続直接観測は世界初の試みです。
●観測の結果、今回のモンスーンジャイアでは、内部に晴れた領域が広がるものの大量の水蒸気を含み、中心から約1000km離れたところで強風域の存在が確認されました。
●観測データ等の解析から、モンスーンジャイアが台風第24号の反時計回りの特異な進路に影響を与えた可能性や、モンスーンジャイアに伴う大量の水蒸気の流れが、9月6日から7日にかけて伊豆諸島北部で発生した記録的大雨の一因となった可能性が示されました。

概要

 今年9月4日から8日にかけて、日本の南海上には、直径2500 km以上に達する、台風(直径1000 km程度)よりかなり水平スケールの大きな反時計回りの風の流れ(低気圧性の渦)が形成されました(図1)。本発表では、この大規模な低気圧性の渦をモンスーンジャイアと呼びます。モンスーンジャイアは、夏季(7~10月頃)に北西太平洋に現れ、数日から2週間程度にわたって存在する大規模な渦で、その内部では台風が発生しやすいことが知られています。しかし、モンスーンジャイアには様々な定義があり、定義によって該当する事例やその持続期間が異なります。また、内部の詳細構造や水蒸気分布、さらには日本の大雨への影響についても、これまで十分に理解されていませんでした。

図1.今回のモンスーンジャイアに伴う反時計回りの風の流れと、そのおおよその大きさ。
低気圧性の渦の最も外側を白の楕円で示している。
図1.今回のモンスーンジャイアに伴う反時計回りの風の流れと、そのおおよその大きさ。
低気圧性の渦の最も外側を白の楕円で示している。

9月3日から8日にかけて、台風第24号が南西諸島に接近し、通常は北向きに移動するところ、南向きに反時計回りする特異な進路を取りました。この時、本州の南岸には秋雨前線が停滞し、各地で大雨となり、特に9月6日から7日にかけて伊豆諸島北部では24時間降水量が観測史上1位(当時)を記録しました。しかし、台風から1000 km以上離れた伊豆諸島で記録的大雨となった理由は、台風と秋雨前線の存在だけでは説明できません。
気象研究所・名古屋大学・横浜国立大学は、台風第24号の特異な進路や大雨の一因として日本の南海上に存在するモンスーンジャイアに着目し、9月5日から7日まで3日間連続で航空機によるドロップゾンデ観測を実施しました(図2)。モンスーンジャイア内部を直接観測した例はこれまでほとんどなく、3日間連続での航空機観測は世界初の試みです。また、観測データの解析結果から、モンスーンジャイアの存在が台風の進路や大雨に関連していたことがわかりました。

図2.9月5日から7日までの航空機観測の経路とモンスーンジャイアの位置の概要図。
背景は気象衛星ひまわりの可視画像及び衛星で観測された海上風(矢羽根)を示し、赤線が航空機観測の経路、白の楕円がモンスーンジャイアに伴う強い風のおおよその位置、白×がモンスーンジャイアの中心位置、青線が台風第24号の経路(9月4日9時から8日9時まで)を表し、台風マークが当該時刻の台風の位置を示す。モンスーンジャイアの中心位置は、925hPa面の客観解析データを使用し、1000 kmスケール以下の小規模擾乱を除去して求めた大規模循環から決定した。
図2.9月5日から7日までの航空機観測の経路とモンスーンジャイアの位置の概要図。
背景は気象衛星ひまわりの可視画像及び衛星で観測された海上風(矢羽根)を示し、赤線が航空機観測の経路、白の楕円がモンスーンジャイアに伴う強い風のおおよその位置、白×がモンスーンジャイアの中心位置、青線が台風第24号の経路(9月4日9時から8日9時まで)を表し、台風マークが当該時刻の台風の位置を示す。モンスーンジャイアの中心位置は、925hPa面の客観解析データを使用し、1000 kmスケール以下の小規模擾乱を除去して求めた大規模循環から決定した。

モンスーンジャイアの特徴

モンスーンジャイア内部は周辺より気圧が低く、中心付近では対流圏下層から上層まで弱風域となっていました。一方、中心から約1000km程度離れた領域には強風域が存在し、その内側には暖気核が形成されていました(図3)。このような暖気核を有する点では、水平スケールは異なるものの、熱帯低気圧と共通する特徴が見られました。また、モンスーンジャイア内部では、広範囲にわたって晴天域が広がっているものの、対流圏中・下層は非常に湿潤で、大量の水蒸気を含んでいました。さらに、モンスーンジャイアに伴う大きな低気圧性循環の中に、台風第24号や複数の小さな熱帯低気圧が埋め込まれていました。このようなモンスーンジャイアの立体構造や時間変化を直接観測で捉えたのは世界初であり、モンスーンジャイアに伴う台風の進路・発生・発達メカニズム、及び大雨発生メカニズムの解明に向けた重要なデータを取得することができました。

図3.9月6日に観測されたモンスーンジャイアの内部構造。
上段の図のAB線(青線)は中・下段の図の鉛直断面の位置を示す。中段左の図はAB面に沿った気圧の鉛直分布で、最東端で観測された気圧からの差分を示す。外側より内側で気圧が低い(低気圧)ことがわかる。中段右の図は水平風速分布を示し、矢羽根の向きは水平方向を表す。下段左の図は気温分布で、最東端で観測された気温からの差分を示す。モンスーンジャイアの内部は外側と比較して暖域となっている。下段右の図は相対湿度で高湿度域は対流圏の中・下層では大量の水蒸気を含んでいたことを示す。
図3.9月6日に観測されたモンスーンジャイアの内部構造。
上段の図のAB線(青線)は中・下段の図の鉛直断面の位置を示す。中段左の図はAB面に沿った気圧の鉛直分布で、最東端で観測された気圧からの差分を示す。外側より内側で気圧が低い(低気圧)ことがわかる。中段右の図は水平風速分布を示し、矢羽根の向きは水平方向を表す。下段左の図は気温分布で、最東端で観測された気温からの差分を示す。モンスーンジャイアの内部は外側と比較して暖域となっている。下段右の図は相対湿度で高湿度域は対流圏の中・下層では大量の水蒸気を含んでいたことを示す。

伊豆諸島の記録的大雨との関連

モンスーンジャイアの強風域が、水蒸気を大量に運ぶ「大気の川[用語1]」 の役割を果たしていました。特に9月6日は前後の日と比較して、中心から約1000km東側の、東西幅約300kmの範囲で水蒸気輸送量が大きく増加していました(図4)。この大量の水蒸気が伊豆諸島付近に停滞していた秋雨前線に持続的に流れ込み、降水が強まったことが、 伊豆諸島において24時間降水量が観測史上1位となる記録的大雨(図5)の一因と考えられます。

図4.水蒸気流入の観測結果。
(上)鉛直積算した水蒸気の流れ(矢印)。背景は気象衛星ひまわりの可視画像(白黒)及び航空機観測後6時間の積算雨量(カラー)を示す。(下)各高度における水蒸気の流れの鉛直断面図。矢印の向きは水平方向を表す。伊豆諸島に流れ込んでいた水蒸気(大気の川、9月6日)や台風第24号本体の水蒸気(9月7日)など台風や大雨のメカニズム解明に向けて重要なデータが得られた。
図4.水蒸気流入の観測結果。
(上)鉛直積算した水蒸気の流れ(矢印)。背景は気象衛星ひまわりの可視画像(白黒)及び航空機観測後6時間の積算雨量(カラー)を示す。(下)各高度における水蒸気の流れの鉛直断面図。矢印の向きは水平方向を表す。伊豆諸島に流れ込んでいた水蒸気(大気の川、9月6日)や台風第24号本体の水蒸気(9月7日)など台風や大雨のメカニズム解明に向けて重要なデータが得られた。

図5.9月7日における24時間降水量の日最大量。
図5.9月7日における24時間降水量の日最大量。

台風第24号の特異な進路との関係

台風第24号の移動は、モンスーンジャイアの低気圧性(反時計回り)の流れと整合しており、9月4日から8日にかけて、奄美大島付近から約300 km離れた位置を反時計回りに進みました(図6)。このことは、モンスーンジャイアの存在が台風第24号の移動に少なからず影響していたことを示しています。

図6.9月4日から8日までのモンスーンジャイアの平均的な位置(白×)と、各時刻の台風第24号中心位置におけるモンスーンジャイアの流れ(青矢印)と実際の台風の動き(赤矢印)。
9月4日9時から8日9時までの台風第24号の位置に沿って青・赤矢印を示している。黒太線は台風第24号の進路を示す(ただし、時間方向に進路を平滑化している)。なお、台風第24号は9月7日9時に台風から熱帯低気圧に衰弱したが、その後の熱帯低気圧の経路も記載している。黒細線はモンスーンジャイアに伴う等高度線(850hPa面)を示す。青矢印と赤矢印は全く同じではないものの、方向は概ね一致しており、台風第24号がモンスーンジャイアの低気圧性循環に流されて移動していたことがわかる。
図6.9月4日から8日までのモンスーンジャイアの平均的な位置(白×)と、各時刻の台風第24号中心位置におけるモンスーンジャイアの流れ(青矢印)と実際の台風の動き(赤矢印)。
9月4日9時から8日9時までの台風第24号の位置に沿って青・赤矢印を示している。黒太線は台風第24号の進路を示す(ただし、時間方向に進路を平滑化している)。なお、台風第24号は9月7日9時に台風から熱帯低気圧に衰弱したが、その後の熱帯低気圧の経路も記載している。黒細線はモンスーンジャイアに伴う等高度線(850hPa面)を示す。青矢印と赤矢印は全く同じではないものの、方向は概ね一致しており、台風第24号がモンスーンジャイアの低気圧性循環に流されて移動していたことがわかる。

まとめと今後の課題

航空機観測によって、これまで十分に理解されていなかったモンスーンジャイア内部の構造の一端が明らかとなりました。9月上旬は、伊豆諸島北部での大雨に加え、9月8日に東海地方で発生した線状降水帯についても、モンスーンジャイアに伴う大量の水蒸気の流入が影響した可能性があります(図7)。気象研究所・名古屋大学・横浜国立大学では、引き続き航空機観測データを詳細に解析するとともに、その他のデータや数値シミュレーション等を用いて、モンスーンジャイアの実態や大雨との関係の解明に向けた研究を進めてまいります。

図7.9月8日におけるモンスーンジャイアの流れと東海地方で発生した線状降水帯。
背景は気象衛星ひまわりの可視画像(白黒)、衛星で観測された海上風(矢羽根)、及び9月8日13時から19時までの6時間積算雨量(カラー)を示す。白破線の楕円はモンスーンジャイアに伴う強い風のおおよその位置、白×はモンスーンジャイアの中心位置、赤丸は線状降水帯が発生した領域を示す。台風マークは元台風第24号(熱帯低気圧)の位置(8日15時頃)を示す。8日はモンスーンジャイアが南北に伸び、形が崩れつつあった。モンスーンジャイアの強風域が日本の南海上で南北に伸びており、これに沿って大量の水蒸気が東海地方に流入し、線状降水帯の発生に影響した可能性がある。
図7.9月8日におけるモンスーンジャイアの流れと東海地方で発生した線状降水帯。
背景は気象衛星ひまわりの可視画像(白黒)、衛星で観測された海上風(矢羽根)、及び9月8日13時から19時までの6時間積算雨量(カラー)を示す。白破線の楕円はモンスーンジャイアに伴う強い風のおおよその位置、白×はモンスーンジャイアの中心位置、赤丸は線状降水帯が発生した領域を示す。台風マークは元台風第24号(熱帯低気圧)の位置(8日15時頃)を示す。8日はモンスーンジャイアが南北に伸び、形が崩れつつあった。モンスーンジャイアの強風域が日本の南海上で南北に伸びており、これに沿って大量の水蒸気が東海地方に流入し、線状降水帯の発生に影響した可能性がある。

用語解説

[用語1]
大気の川:大気中を細長い帯状となって数千kmにわたり運ばれる大量の水蒸気の流れです。線状降水帯や豪雨を引き起こす要因の一つと考えられています。

資料

研究者プロフィール

筆保 弘徳新しいウィンドウが開きます
総合学術高等研究院 教授

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総合学術高等研究院 教授 筆保弘徳
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(担当:リレーション推進課)


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