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【プレスリリース】光電融合に向けた高性能シリコン光変調器を開発

-複雑な信号処理を減らし200Gb/sの低電力光変調を実証-

ポイント

○小型のシリコン光変調器で、毎秒200ギガビットの低電力光変調を実証
○スローライトの利用と電気光学イコライザの集積で、デジタル信号処理負荷を低減
○AIデータセンターでのCPOに向け、光接続の大容量化・高密度化に貢献

概要

 東京科学大学(Science Tokyo)工学院 電気電子系の川原啓輔助教、西山伸彦教授、ならびに横浜国立大学 大学院工学研究院の馬場俊彦教授らの研究チームは、産業技術総合研究所の前神有里子研究チーム長らの研究チームと共同で、小型シリコン光変調器(用語1)を用い、低消費電力で毎秒200ギガビット(200 Gb/s)の高速光変調を実証しました。
 生成AIの普及に伴い、データセンターでは多数の計算機を連携させて膨大なデータを処理する必要が生じています。その性能を支える高速な光通信の実現に向けて、素子の高速化、小型化、省電力化が求められています。
 本研究では、多数の素子が集積できるシリコン光変調器に着目し、これらの両立を試みました。特に、光をゆっくり伝える「スローライト」(用語2)を発生させるフォトニック結晶導波路を光変調器に導入し、小型化と低消費電力化を可能にしました。従来は外部の電子回路が担っていた波形整形機能を、「電気光学イコライザ」の組み込みによってオンチップで実現し、デジタル信号処理(DSP、用語3)への依存を抑えながら高速動作を実現しました。1ビット当たりの駆動エネルギーは最小で26フェムトジュールであり、これは従来の標準値のおよそ100分の1に相当します。このような変調器は、AIデータセンター向けの光接続技術として注目されるコパッケージド・オプティクス(CPO、用語4)への応用が期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Nature Communications」に2026年10月22日付(現地時間)で掲載されました。

図1 電気光学イコライザを内蔵したスローライト光変調器。光の経路(水色)に遅延と交差を設けることで、信号波形を整形する。金色は電極を示す。(原論文の図より引用)
図1 電気光学イコライザを内蔵したスローライト光変調器。光の経路(水色)に遅延と交差を設けることで、信号波形を整形する。金色は電極を示す。(原論文の図より引用)

背景

 生成AIの普及に伴い、データセンターでは多数の計算機を連携させて膨大なデータを処理するようになっています。その性能を支えるのが、計算機同士を結ぶ高速な光相互接続です。通信容量拡大のためには、1つの光信号で送れる情報量を増やし、多数の通信回路を限られた空間に集積する必要があります。それに向けて、素子の高速化、小型化、省電力化が求められています。
 電気信号を光信号に変えるシリコン光変調器は、半導体の製造技術で多数の素子を集積できることから、高速な光相互接続を支える技術として期待されています。しかし、従来の構造では、十分な光変調を得るために数ミリメートルの長さが必要で、集積化の妨げになるだけでなく、高速動作も難しくなります。そのため、高速化に伴って生じる信号波形の歪みを補償するDSPが複雑化する課題もありました。さらに、大きな駆動電圧を必要とするため、駆動回路の消費電力の増加も課題となっていました。
 シリコンに微細な穴を規則的に並べたフォトニック結晶導波路では、光をゆっくり伝えるスローライトを利用できます。スローライトを採用する場合、光と材料の相互作用が強まるため、短い素子を低電圧で動かすことができ、小型化・省電力化につながります。一方で、素子の電気的な応答速度には制約があり、高速化には電子回路による補償が必要でした。通信容量拡大の実現に向けて、小型・省電力という利点を保ちながら、この速度の制約を乗り越えることが求められていました。

研究成果

 研究チームは、スローライト効果があるフォトニック結晶導波路を用いた光変調器に、波形整形のための電気光学イコライザを光電協調設計技術(用語5)により導入しました。光の変調部を複数の区間に分け、その途中に光を遅らせる経路と、2本の光の経路が交差する構造を配置します。タイミングをずらした変調と向きを反転させた変調を組み合わせることで、高い周波数成分を補償します。電子回路で行っていた波形整形の一部を、光変調器の構造そのものに担わせる仕組みです(図1)。
 本光変調器は、産業技術総合研究所の300 mmウエハー対応半導体製造装置を用いたシリコンフォトニクスプロセスにより作製され、微細なフォトニック結晶構造が高い精度で形成されました。高速変調実験に用いた素子の長さは320 µm(0.32 mm)と短く、電極を含む面積も0.4 mm²と小型です。応答速度の指標となる3 dB帯域幅は、従来のシリコンフォトニック結晶光変調器の2倍以上に拡大できました。
 高速変調実験では、光の強さを4段階に切り替えるPAM4(用語6)方式により、DSPによる波形補償なしでも180 Gb/sの明瞭なアイパターン(用語7)を得ました。さらに、簡素な11タップのDSPを受信側に適用することで、駆動電圧1.5 Vで200 Gb/sの動作を実現しました(図2)。光のオン・オフで信号を表す方式では、同じDSPを用いて、0.6 Vで140 Gb/sを実現しました。このとき、変調における1ビットあたりの消費エネルギーは、26フェムトジュールでした。これは、同種の変調器における従来の標準的な値の100分の1という小さな値です。以上のように、小型・低消費電力の光変調器を作製し、複雑なDSPへの依存を抑えた高速動作に成功しました。

図2 高速動作時のアイパターン。左:180 Gb/s PAM4(DSPなし)、中央:200 Gb/s PAM4(簡素なDSPあり)、右:140 Gb/sのオン・オフ変調(簡素なDSPあり)。TDECとTDECQは波形品質の指標で、小さいほど良好。(原論文の図より引用)
図2 高速動作時のアイパターン。左:180 Gb/s PAM4(DSPなし)、中央:200 Gb/s PAM4(簡素なDSPあり)、右:140 Gb/sのオン・オフ変調(簡素なDSPあり)。TDECとTDECQは波形品質の指標で、小さいほど良好。(原論文の図より引用)

社会的インパクト

 多数の光通信回路を並べるデータセンターでは、それぞれの回路の消費電力や集積面積を抑えることが、全体の通信容量を増やすうえで重要です。本研究は、光相互接続の高速化を支える波形整形の一部を、光変調器の内部で実現できることを示しました。この技術により、高速化のために電子回路側で担っていた処理を光素子にも分担させることが可能となり、送受信モジュール全体の省電力化につながると期待されます。
 また、今回の素子は、1枚のウエハー上で複数の設計を相乗りさせるMPW(Multi-Project Wafer)の汎用的なシリコンフォトニクスプロセスで作製でき、先端CMOS電子回路に適した低電圧で動作します。光と電子の回路を高密度に集積する構成へ展開しやすく、AIを支える計算機間通信の大容量化を、より少ない電力と実装面積で実現するための基盤技術となることが期待されます。

今後の展開

本研究成果は、電子回路の近くに多数の光トランシーバを高密度に実装するCPOへの応用が期待されます。また、光素子に信号処理を担わせる今回の考え方は、光と電子の役割分担を工夫し、システム全体を効率化する設計にも展開できると考えられます。こうした光電協調設計技術の研究が進展することで、AIの発展を支えるデータセンターの持続的な性能向上につながることが期待されます。

付記

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費JP25K23449・JP23KJ0988、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)JPNP16007、および日本ルメンタム株式会社、キーサイト・テクノロジー株式会社等の支援を受けて実施されました。

用語解説

[用語1]
シリコン光変調器:シリコンに加える電気信号によって光の強度や位相を変化させ、光に情報を載せる素子。本研究では、2本の光の経路を通る光の干渉を利用するマッハツェンダー型を用いた。

[用語2]
スローライト:物質中を伝搬する光の群速度が極端に遅くなった状態、またはその技術。光と材料の相互作用が強まるため、短い素子でも低い電圧で光を変調できる。

[用語3]
デジタル信号処理(DSP):信号をデジタル値として扱い、計算によって加工をする技術。

[用語4]
コパッケージド・オプティクス(CPO):データ処理を行う半導体チップと光通信を行う部品を近接して配置し、両者を一体化する技術。

[用語5]
光電協調設計技術:光で情報を伝える部分と、電気で情報を処理・制御する部分を、別々ではなく一体として設計する手法。

[用語6]
PAM4:光の強さを4段階に切り替え、1回の切り替えで2ビットの情報を表す方式。光のオン・オフの2段階で情報を表す方式よりも、同じ切り替え速度で多くの情報を送れる。

[用語7]
アイパターン:繰り返し得られる信号波形を重ねて表示したもの。中央に現れる目のような開口から、信号の判別のしやすさや波形の乱れを視覚的に評価できる。

論文情報

掲載誌 Nature Communications
タイトル Reduced-DSP 200G/λ low-voltage slow-light silicon modulator enabled by built-in EO equalizer
著者 Keisuke Kawahara, Tai Tsuchizawa, Noritsugu Yamamoto, Yuriko Maegami, Koji Yamada, Nobuhiko Nishiyama, Toshihiko Baba
DOI 10.1038/s41467-026-78128-1

資料

研究者プロフィール

馬場 俊彦新しいウィンドウが開きます
大学院工学研究院 教授

お問い合わせ先

<研究に関すること>
大学院工学研究院 教授 馬場 俊彦
メールアドレス: baba-toshihiko-zmynu.ac.jp

<報道に関すること>
総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: pressynu.ac.jp

(担当:リレーション推進課)


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