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【プレスリリース】二次元ダイオードの機能界面を光を活用して特定

キャリア注入を発光で直接検出 Applied Physics Letters誌「Editor's Picks」選出論文

本研究のポイント

・Applied Physics LettersのEditor's Picksに選出された注目成果
・順方向バイアスだけでWSe₂のトリオン発光が大きく増える非対称応答を発見
・電気測定だけでは分かりにくい機能界面を、発光で局所的・非破壊に見分ける方法を提示

研究概要

 横浜国立大学大学院工学研究院の大野 真也准教授と防衛大学校応用物理学科の平田 靖透講師、宮内 良広教授の研究グループは、原子層半導体WSe₂/MoS₂からなるダイオードの「電流が流れる界面」を光学的に特定する手法を開発しました。順方向電圧を加えると、WSe₂のトリオン発光が約18倍に増強されます。逆方向ではほとんど変化しないことから、界面を越えた電子注入の光学的指標になることを明らかにしました。
 本研究成果は2026年10月20日付で国際科学誌Applied Physics Lettersに掲載され「Editor's Picks」に選出されました。

社会的な背景

 原子数層の厚さしかない二次元半導体[用語1]は、薄く柔軟で、光と電気を強く結び付けられる材料として、次世代の光電子デバイスへの応用が期待されています。異なる二次元半導体を重ねたファンデルワールスヘテロ構造[用語2]では、原子レベルで平坦な界面を利用して電荷の流れを精密に制御することができます。一方、実際に電圧をかけて動作しているデバイス内部で、界面のどの部位にキャリアが注入され、機能を担っているのかを、非破壊かつ局所的に特定することは容易ではありません。

研究成果

 研究グループは、単層WSe₂と単層MoS₂を積層したファンデルワールスヘテロ構造ダイオードに対して、印加電圧を変化させながら空間分解フォトルミネッセンス(PL)測定[用語3]を行い、界面におけるキャリア注入挙動を詳細に調べました。その結果、順方向バイアスを印加すると、WSe₂中の負の三重励起子(トリオン)[用語4]に由来する発光が著しく増強する一方、逆方向バイアスでは発光スペクトルにほとんど変化が現れないことを見いだしました。このような電圧極性に依存した強い非対称応答は、単なる電場効果による発光変調では説明できず、MoS₂側からWSe₂側へ電子が注入されることでトリオン生成が促進されていることを示しています。
 さらに、発光変化の起源を明らかにするため、ヘテロ界面領域と単独の材料領域を比較したところ、孤立したWSe₂領域およびMoS₂領域では同様のスペクトル変化はほとんど観測されませんでした。また、複数の界面や電流経路を含む広い領域ではトリオン発光の増強は約1.8倍にとどまったのに対し、測定位置を単層WSe₂/単層MoS₂界面に限定すると約18倍もの大幅な発光増強が観測されました。これらの結果は、順方向バイアスによるキャリア蓄積が特定のヘテロ界面で集中的に生じていることを示しており、ダイオード動作の本質的な舞台がこの界面であることを強く示唆しています。
 加えて、デバイス内に存在する寄生的な電流経路をレーザーアブレーションによって選択的に除去したところ、それまで不明瞭であった電流−電圧特性に明確な整流特性が現れました。すなわち、観測されたダイオード特性が単なる層厚の違いや横方向輸送によるものではなく、単層WSe₂/単層MoS₂ヘテロ界面そのものに由来することの実証に成功しました。これらの結果から、空間分解PL測定を用いることで、動作中の二次元ヘテロ構造デバイスにおける電子注入とキャリア蓄積を光学的かつ非破壊に可視化できることが示されました。また、本手法が複数の界面や複雑な電流経路を含むデバイスにおいても、実際にデバイス機能を担う界面を特定できる有効な評価手法であることを明確にしました。

ヘテロ構造ダイオードに流れる電流と負トリオン(X−)形成の模式図
ヘテロ構造ダイオードに流れる電流と負トリオン(X−)形成の模式図

今後の展開

 本成果は、発光スペクトルを用いて、動作中の二次元材料デバイスにおけるキャリア注入と機能界面を非破壊で可視化・特定できることを示しました。本手法は、従来の電気測定だけでは把握が難しかった電流の流れや界面ごとの役割を局所的に評価できるため、複数の界面や電流経路をもつ複雑なファンデルワールスデバイスの動作機構の解明に有効です。今後は、さまざまな二次元半導体ヘテロ構造や複合デバイスへ適用することで、キャリア輸送や界面反応の理解を深め、機能を担う界面の設計指針を提供することが期待されます。また、デバイス性能の向上や開発効率の改善につながる評価技術として、低消費電力の光電子デバイス、光検出器、センサーなどの次世代ナノデバイスの研究開発への貢献も期待されます。

謝辞

 本研究は、日本学術振興会 科学研究費(課題番号 JP23K26540、JP23H01847)の助成を受けて行われました。

用語解説

[用語1]
二次元半導体:原子数層の厚さをもつ遷移金属ダイカルコゲナイド半導体(TMD)などを指します。WSe₂やMoS₂はその代表例です。

[用語2]
ファンデルワールスヘテロ構造:異なる原子層材料を弱いファンデルワールス力で積層して作る人工界面構造。

[用語3]
フォトルミネッセンス(PL)測定:光を照射した試料から放出される発光。発光エネルギーや強度から励起子やキャリア状態を調べる方法。

[用語4]
三重励起子(トリオン):励起子(電子と正孔の束縛状態)に余分な電子または正孔が結合した荷電励起子。本研究では負のトリオン(X⁻)を観測しました。

論文情報

掲載誌 Applied Physics Letters
タイトル Optical signature of bias-induced carrier injection in a WSe₂/MoS₂ heterostructure diode
著者 Yasuyuki Hirata, Hibiki Kinpara, Shinya Ohno, and Yoshihiro Miyauchi
DOI 10.1063/5.0347746

資料

研究者プロフィール

大野 真也新しいウィンドウが開きます
大学院工学研究院 准教授

お問い合わせ先

<研究に関すること>
大学院工学研究院 准教授 大野 真也
メールアドレス: ohno-shinya-mvynu.ac.jp

<報道に関すること>
総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: pressynu.ac.jp

(担当:リレーション推進課)


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