【プレスリリース】多孔性グラフェンを導電助剤に活用し、実用的なリチウムイオン電池電極の入出力性能を大きく向上
本研究のポイント
・実用的なリチウムイオン電池に用いられる高密度かつ厚膜の電極では、電極内部のイオン輸送が妨げられ、急速充放電性能の低下が実用的な課題だった。
・多孔性グラフェンを導電助剤に用いて、実用電極の出力性能向上を実現。
・既存リチウムイオン電池の高エネルギー密度・高入出力化両立の実現が期待。
研究概要
横浜国立大学大学院工学研究院/先端科学高等研究院の宇賀田 洋介 助教、大学院工学研究院/先端科学高等研究院/総合学術高等研究院の藪内 直明 教授、株式会社3DCらの研究グループは、三次元多孔質炭素材料であるGraphene MesoSponge® (GMS)[用語1]をリチウムイオン電池電極の導電助剤[用語2]として用いることで、高密度かつ厚膜の電極の急速放電性能を大きく向上できることを明らかにしました。
リチウムイオン電池の高エネルギー密度化には、電極を厚くして活物質[用語3]の量を増やし、高密度化することが重要です。しかし、これに伴い電極内部の細孔を満たす電解液中のリチウムイオン (Li+) 輸送が妨げられ、急速充放電性能が低下する課題があります。本研究では、GMSをわずか1重量%添加することで、その炭素骨格が電子輸送経路として働くだけでなく、GMS内部の細孔に電解液が保持され、Li+の輸送経路としても機能することを見いだしました。その結果、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)[用語4]を用いた電極と比較して、高エネルギー密度と優れた入出力特性の両立を立証しました。
本研究成果は、Wiley社が出版する 「Advanced Energy Materials」誌 (インパクトファクター 25.5) に2026年10月8日付にオンラインで掲載されました。
社会的な背景
リチウムイオン電池は、電気自動車や大型蓄電システムなどへの利用が広がり、さらなる高エネルギー密度化が求められています。その実現には、高容量の電極材料の開発に加え、電極を厚くして活物質の量を増やし、高密度化することが重要です。しかし、電極の厚膜化・高密度化に伴い、内部の細孔が減少し、電解液中のリチウムイオン(Li+)輸送が妨げられるため、急速充放電性能が低下するという課題があります。現在、カーボンナノチューブなどの導電助剤が実用化されていますが、これらは主に電子輸送を担うものであり、高密度電極内部のLi+輸送経路を確保することが課題となっています。
研究成果
本研究グループは、三次元的につながったグラフェン骨格と多数のナノサイズの細孔を持つGraphene MesoSponge®(GMS)(GMS詳細: https://www.3dc.co.jp/ja/innovation)を導電助剤として、高密度かつ厚膜のリチウムイオン電池電極に適用しました。GMSを1重量%添加した電極を作製し、高性能な導電助剤として利用されている単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を用いた電極と比較すると、図1左に示すように、GMSでは炭素骨格が電子輸送経路として働くだけでなく、内部の細孔に保持された電解液がLi+輸送経路としても機能します。その結果、高密度電極内部でも電子とLi+の三次元輸送経路を確保できます。一方、SWCNTは電子輸送には優れていますが、GMSのような内部細孔を持たないため、高密度電極におけるLi+輸送経路の確保には限界があります。
図1右に示す放電特性では、低電流条件で両電極が同程度の容量を示す一方、電流の増加に伴い性能差が顕著になりました。特に800 mA g-1(15.5 mA cm-2)という大きな電流では、SWCNTを用いた電極の放電容量が大きく低下するのに対し、GMSを用いた電極は高い容量を維持しました。これは、GMSが電子輸送だけでなく、内部に保持された電解液を介したLi+輸送にも寄与することで、高密度・厚膜電極で問題となるイオン輸送の制限を緩和できるためです。
本成果は、導電助剤によって電子とLi+の輸送経路を同時に形成することが、高密度・厚膜電極の急速放電性能の向上に有効であり、高エネルギー密度と高入出力特性を両立する新たな電極設計指針となることを示しています。
左:GMSおよび単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を用いた電極内の電子とLi+の輸送の模式図。GMSでは、炭素骨格による電子輸送に加え、内部細孔に保持された電解液を介してLi+が輸送されます。右:各電極の異なる電流密度における放電曲線。GMSを用いた電極は、高電流密度でも高い放電容量を維持しました。
今後の展開
今後、GMSの添加量や電極作製条件、活物質やバインダーとの組み合わせを最適化することで、さらなる電極性能の向上が期待されます。また、本研究で示した電子とリチウムイオンの輸送経路を同時に形成する電極設計は、リチウムイオン電池に限らず、さまざまな電池系への応用が期待され、高エネルギー密度と高入出力の両立に貢献すると考えられます。
本成果は、科学技術振興機構(JST)革新的 GX技術創出事業(GteX)(課題番号:JPMJGX23S3)、JST 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)(課題番号:JPMJAP2313, JPMJAP2528)、および JST戦略的創造研究支援事業 さきがけ(課題番号:JPMJPR25M2)などの支援により実施されました。
用語解説
[用語1]
Graphene MesoSponge® (GMS):グラフェンからなる炭素骨格が三次元的につながった、スポンジ状の多孔質炭素材料。内部に多数のナノサイズの細孔を持ち、本研究では、この細孔に電解液を保持できる特徴を利用することで高性能化を実現しています。
[用語2]
導電助剤:電極内部で電子を流れやすくするために、電極に少量添加する炭素材料です。カーボンブラックやカーボンナノチューブなどが用いられています。
[用語3]
活物質:電池の充放電に伴ってリチウムイオンを蓄えたり放出したりする材料。本研究では、リチウムとニッケルからなる層状酸化物を正極の活物質として用いています。
[用語4]
単層カーボンナノチューブ(SWCNT):1枚のグラフェンシートが円筒状に巻かれた構造をもつ炭素材料。電極に少量加えることで電子伝導性を大幅に向上できることから、商用のリチウムイオン電池にも用いられています。
論文情報
| 掲載誌 | Advanced Energy Materials |
|---|---|
| タイトル | Unlocking Three-Dimensional Electron and Ion Transport in High-Loading and Dense Lithium-Ion Battery Electrodes Assisted via Porous Graphene Networks |
| 著者 | Yosuke Ugata, Rei Matsumoto, Sera Sato, Jaejin Lim, Yong Min Lee, Hiroshi Ueda, Atsuo Omaru, Kosuke Ishii, and Naoaki Yabuuchi |
| DOI | 10.1002/aenm.71677 |
資料
研究者プロフィール
宇賀田 洋介![]()
大学院工学研究院/先端科学高等研究院 助教
藪内 直明![]()
大学院工学研究院/先端科学高等研究院/総合学術高等研究院 教授
お問い合わせ先
<研究に関すること>
大学院工学研究院/先端科学高等研究院 助教 宇賀田 洋介
メールアドレス: ugata-yousuke-nr
ynu.ac.jp
大学院工学研究院/先端科学高等研究院/総合学術高等研究院 教授 藪内 直明
メールアドレス: yabuuchi-naoaki-pw
ynu.ac.jp
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ynu.ac.jp
(担当:リレーション推進課)

