【プレスリリース】排ガス中のCO₂ とシリコン廃材からギ酸合成に成功
本研究のポイント
・火力発電所由来の排ガス中のCO₂を直接ギ酸へ転換
・実際の廃棄太陽光パネルから回収したシリコンを還元剤として活用
・CO₂との反応性に影響を与えるシリコン廃材中の不純物を特定
研究概要
横浜国立大学 大学院工学研究院の本倉健教授らの研究グループは、電源開発株式会社、産業技術総合研究所と共同で、火力発電所由来の排ガスに含まれるCO₂と、廃棄太陽光パネルから回収されたシリコンを直接反応させて、ギ酸を合成できることを見いだしました。実際の排ガスとシリコン廃材を直接反応させることができ、排ガス中CO₂の有効利用と廃棄太陽光パネルのリサイクルを同時に実現する技術の確立に近づきました。
本研究成果は、アメリカ化学会の国際学術雑誌「ACS Sustainable Resource Management」(オープンアクセス、7月13日:日本時間7月13日24時00分)に掲載されました。
社会的な背景
2050年カーボンニュートラル実現へ向けて、CO₂の資源化技術の確立が重要な課題とされる中、CO₂からの有価物合成が注目されており、様々な研究が進んでいますが、排ガス中に含まれるCO₂の直接利用が期待されています。
一方で、再生可能エネルギーである太陽光発電の供給量増加へ向けて、太陽光パネルの需要が大幅に伸びていますが、20~30年程度の耐用年数経過後、寿命を迎えたパネルの大量廃棄が予想されています。太陽光パネルを、ガラス、アルミフレーム、金属等に分離する技術は実用化段階にありますが、全体の重量当たり3%を占めるシリコン部位に関しては有力なリサイクル方法が確立されていません。
研究成果
本研究では、このような背景のもと、実際の廃棄太陽光パネルから分離・回収されたシリコン部位を活用し、火力発電所からの排ガス中のCO₂と反応させることで、ギ酸と多孔質シリカ(用語解説1)を合成する触媒反応の開発に成功しました(図1)。
純粋なCO₂と高純度シリコンを反応させCO₂を還元しギ酸が得られることは、既に当研究グループから報告していましたが(参考文献1)、今回は実際の廃棄シリコン・排ガスを活用できることを実証した初めての報告となります。ギ酸は年間約2万トンの国内需要があり、防腐剤・殺菌剤・洗浄剤等として各種産業において幅広く活用されています。本研究成果により、太陽光パネルの新たな有価値リサイクル方法の確立と、排ガス中CO₂の有効利用へ向けて、研究が大きく進展したと考えています。
本研究では、まず、太陽光パネルから様々な工程で分離されたシリコンを用いて、純粋なCO₂との反応を実施したところ、シリコンサンプルによってはCO₂の還元反応が進行しないものが存在することがわかりました(図2下)。この原因を考察するため、シリコン粉末のX線光電子分光(XPS)測定を行ったところ、反応性の低いシリコンサンプルには表面に不純物のアルミニウム(Al)が存在していることがわかりました(図3)。このAlを塩酸によって除去することでシリコンの反応性が向上し、CO₂との反応を試みた全てのサンプルにおいてギ酸が生成することが確認されました(図2上)。
次に、実際の排ガスに含まれるCO₂の活用を試みました。微粉炭火力発電所(電源開発株式会社 磯子火力発電所)の排ガス(CO₂: およそ14vol%(vol%は体積比率を示す単位))を直接ボンベに回収し、この排ガスを9気圧に昇圧して廃棄シリコンとの反応を実施したところ、最高で1.10 mmol(ミリモル)のギ酸を合成することに成功しました。このとき、反応容器中に導入されたCO₂基準のギ酸収率は73%に達しました。さらに、火力発電所からの排ガスを直接反応容器に導入した場合も、ほぼ同様のギ酸収率が得られました。これらの結果は、特殊な処理工程を経ることなく排ガスをシリコンとの反応に用いられることを示しており、将来的なCO₂からのギ酸合成プロセスの確立へと前進する成果であるといえます(図4)。




今後の展開
今回の研究で、オンサイトにて火力発電所からの排ガスを直接反応器に導入し、ギ酸を合成できることがわかり、大量合成の実現可能性が高まったと考えられます。一方で、シリコンサンプルによる反応性の違いや、触媒効率等、実用化へ向けた解決すべき課題も明確になりました。プロセスの実用化へ向けて、廃棄シリコンのさらなる詳細な特性調査と前処理条件の精査を実施するとともに、性能と経済性を両立する高性能触媒の探索を進めます。
謝辞
本研究は、科学技術振興機構(JST)「戦略的創造研究推進事業 ALCA-Next(先端的カーボンニュートラル技術開発)(課題番号:JPMJAN23C7)」、科研費「基盤研究(B)(課題番号: JP23K23131)」、およびカーボンリサイクルファンド助成金の支援により実施されました。
参考文献1
R. A. Pramudita, K. Nakao, C. Nakagawa, R. Wang, T. Mochizuki, H. Takato, Y. Manaka, K. Motokura, Energy Advances, 2022, 1, 385-390.
用語解説
[用語1]
多孔質シリカ:ミクロ細孔やメソ細孔をもつ⾼⽐表⾯積を有するシリカ。細孔サイズや表⾯積に応じて吸着剤、触媒、研磨剤等の様々な⽤途がある。
[用語2]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone)の略称。極性溶媒として有機合成反応等に⽤いられる。
論文情報
掲載誌 | ACS Sustainable Resource Management |
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タイトル | Conversion of CO₂ in Exhaust Gas to Formic Acid and Formamides with Wasted Silicon Recovered from End-of-Life Solar Panels |
著者 | Ken Motokura, Yurino Sasaki, Yusuke Tanimura, Takuya Shiroshita, Shingo Hasegawa, Kousuke Arata, Ryosuke Takemura, Kazuo Namba, Yuichi Manaka (本倉 健、佐々木 ゆりの、谷村 勇亮、白下 拓哉、長谷川 慎吾、荒田 浩輔、竹村 亮介、難波 一夫、眞中 雄一) |
DOI | https://doi.org/10.1021/acssusresmgt.5c00056![]() |
資料
研究者プロフィール
本倉 健
大学院工学研究院 教授
お問い合わせ先
横浜国立大学 大学院工学研究院 教授 本倉 健
メールアドレス: motokura-ken-xw ynu.ac.jp
(担当:リレーション推進課)