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【プレスリリース】実用合金の微細構造を高速で予測する新手法

四半世紀の難題を突破、世界最多となる20元素を含む計算に成功

本研究のポイント

・多元素の合金の微細構造を予測する新手法を確立
・従来法で2年以上要する計算を5分で完了、前例がない元素数の計算に成功
・合金設計を加速する技術として、実用材料開発への応用に期待

研究概要

横浜国立大学の森野琢水博士後期学生、廣澤渉一教授、物質・材料研究機構の大出真知子主任研究員らの研究グループは、多くの元素を含む合金の微細構造を高速かつ高精度に予測する新たな手法を開発しました。本手法により、従来では2年以上の計算を要するNi基超合金の微細構造予測がわずか5分で実行可能となり、さらに、史上最多となる20元素を含む合金の凝固計算[用語1]にも成功しました。これにより、実用合金設計は、試行錯誤的な実験から、計算機による合理的な設計へと大きく前進することが期待されます。本研究成果は、国際科学雑誌「Nature Communications」(2025年7月15日付)に掲載されました。

図1 従来法では2年以上かかるが本手法では5分で完了するNi基超合金の微細構造計算
図1 従来法では2年以上かかるが本手法では5分で完了するNi基超合金の微細構造計算
図2 史上最多となる20元素を含む合金の凝固計算
図2 史上最多となる20元素を含む合金の凝固計算

社会的な背景

合金は、複数の金属を組み合わせることで、軽量性や高強度、耐食性など単一の金属とは異なる高い特性を実現できる材料です。自動車パネルや航空機エンジンなどの構造材料には、10種類以上の元素を組み合わせた高性能な合金が広く用いられています。こうした実用合金の性能は、合金内部の微細構造に左右されるため、構造を事前に予測し、材料設計に活かすことが、材料開発の大きな課題となっています。微細構造の予測手法としては「フェーズフィールド法[用語2]」が事実上の業界標準として広く利用されています。しかし、この手法は扱う元素数に応じて計算量が指数関数的に増大するという課題を抱えています。そのため、4種類以上の元素を含む合金の高速かつ高精度な微細構造予測は四半世紀にわたって未解決の難題とされてきました。

研究成果

フェーズフィールド法において、扱う元素数に応じて計算を急激に複雑にさせる主な要因が、合金の局所平衡条件[用語3]を表す陰関数[用語4]の存在です。陰関数を解くには、コンピューターで計算を繰り返すことで解に近づける収束計算が必要となります。この計算処理には膨大な時間がかかり、数日~数年間かかることも稀ではありません。そこで本研究では、計算量を抑えるため、局所平衡に基づいて原子の動きを定式化することで局所平衡条件を陽関数形式で表現する新たな計算式を導き出しました。これにより、従来法では避けられなかった計算負荷の課題が根本的に解決でき、多数の元素を含む合金の微細構造予測が初めて現実的になりました。実際に、航空機エンジン材料として用いられる10元素以上からなる合金の微細構造予測において、従来法では2年以上を要していた計算を、新手法ではわずか5分で完了させることに成功しました。さらに、この手法を用いることで、世界最多となる20元素を含む合金の凝固過程のシミュレーションも可能となりました。本成果は、材料開発における実用合金設計のアプローチを従来の試行錯誤的な実験から、計算科学を基盤とした効率的かつ再現性の高いデジタル主導のプロセスへと大きく転換させるものと期待されます。

今後の展開

今後は、幅広い産業分野での実践的な適用を視野に入れて手法の改良を進めていきます。たとえば、鉄鋼材料の特性に大きく影響する原子空孔の取り扱いや、セラミックスに多く存在する化合物の計算にも対応できるように、理論を拡張していく予定です。本研究により、より柔軟かつ効率的な材料開発が可能となります。たとえば、多数の元素を含むリサイクル材の有効活用によるサステナブルな材料創出や、既存材料の性能・品質のさらなる向上を通じて、産業全体の発展への貢献が期待されます。将来的には、本手法を多様な材料系に適用可能な材料設計のデファクトスタンダードとして確立することを目指しています。

謝辞

本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業「フェーズフィールド法「エコ」ソフトウエアの開発と公開研究課題」(課題番号:22K04794)と株式会社Niterra Materials(旧東芝マテリアル株式会社)の助成を受けて行われました。

用語解説

[用語1]
凝固計算:材料が液体(溶融状態)から固体(結晶状態)へと変化する「凝固過程」において、組成や温度の空間分布、微細構造の形成過程などを、数値的に計算すること。

[用語2]
フェーズフィールド法:材料内部に形成されるマイクロスケール(1mmの千分の1)の微細構造の時間変化や形状を計算機上で再現・予測する手法。近年では、物性値を与えるだけで、定量的に微細構造が予測できる段階に到達しており、材料設計における強力なツールとして注目されている。

[用語3]
局所平衡条件:材料内部で複数の状態が混在しているとき、エネルギー的に最も安定な構成になるように合金成分の分布が決まるという条件。この条件は熱力学第2法則(自由エネルギー最小化の原理)に基づいており、計算機上で微細構造を再現するうえで不可欠な条件である。

[用語4]
陰関数:数式の中で、変数が明示的に解かれていない(=従属変数が独立変数の関数として表現されていない)形の関数。フェーズフィールド法では、局所平衡条件を満たす状態を求めるために陰関数を数値的に解く必要があり、これが計算を複雑化させる要因となっていた。

論文情報

掲載誌 Nature Communications
タイトル An explicit integration approach for predicting the microstructures of multicomponent alloys
著者 Takumi Morino, Machiko Ode, and Shoichi Hirosawa
DOI https://doi.org/10.1038/s41467-025-61246-7新しいウィンドウが開きます

資料

研究者プロフィール

廣澤 渉一新しいウィンドウが開きます
大学院工学研究院 教授

お問い合わせ先

<研究に関すること>
大学院工学研究院 教授 廣澤 渉一
メールアドレス: hirosawa-shoichi-mc ynu.ac.jp

理工学府 博士課程後期 森野琢水
メールアドレス: morino-takumi-rb ynu.ac.jp

<報道に関すること>
総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: press ynu.ac.jp

(担当:リレーション推進課)


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