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【プレスリリース】次世代「ナトリウムイオン電池」の充電メカニズムを世界で初めて直接観測!

— 中性子散乱を用いたマルチスケール観測で、ハードカーボンの謎を特定 —

発表のポイント

・次世代電池の主役:希少金属であるリチウムに代わる安価で豊富な「ナトリウム」を用いた電池の性能向上が期待されます。
・世界初の成果:「中性子」の力を使い、充電中に電池内部でナトリウムがどのように動くかを、100ナノ(1万分の1ミリ)からオングストローム(1000万分の1ミリ)までの幅広いスケールで同時に観察することに成功しました。
・3段階のプロセス:ナトリウムが「表面に吸着」「層の間に入り」「ナノサイズの隙間を埋める」という3つのステップで蓄えられることを突き止めました。

概要

 東北大学金属材料研究所 梅本 好日古 博士研究員(現 オークリッジ国立研究所 博士研究員)、総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センター研究開発部 大石 一城 次長、河村 幸彦 技師、東京理科大学理学部第一部応用化学科 五十嵐 大輔 プロジェクト研究員、中本 康介 助教、駒場 慎一 教授、横浜国立大学大学院工学研究院 多々良 涼一 准教授、東京科学大学(Science Tokyo)総合研究院化学生命科学研究所 LIN Che-an 研究員、館山 佳尚 教授、日本原子力研究開発機構J-PARCセンター 廣井 孝介 研究副主幹、高田 慎一 研究副主幹、及び京都大学複合原子力科学研究所 南部 雄亮 特定教授の研究グループは、中性子を用いて、次世代の蓄電デバイスとして期待されるナトリウムイオン電池の負極材料「ハードカーボン[用語1]」において、ナトリウムが負極に挿入されるプロセスを世界で初めてリアルタイムかつマルチスケールでの観測に成功しました。 本研究では、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)[用語2]に設置された中性子小角・広角散乱装置「大観」[用語3]を用い、電池を充放電させながら内部を観察する「オペランド測定」を実施しました。その結果、ナトリウムが炭素の「表面や欠陥部分」、「層間」や「ナノサイズの隙間」へ順番に挿入されていく3段階のメカニズムを特定することに成功しました。この成果は、資源制約のないナトリウムを用いた安価で高性能な次世代電池の開発に大きく貢献するものです。
 この研究成果は、英国王立化学会が出版するChemical Scienceに2026年2月25日にオンライン掲載されました。

背景

 現在、スマートフォンや電気自動車に欠かせないリチウムイオン電池ですが、原料となるリチウムの資源量には限りがあり、価格の高騰や供給不安が課題となっています。これに対し、ナトリウムは海水などから豊富に得られるため、低コストで持続可能なナトリウムイオン電池(NIB)が次世代の主役として注目されています。 NIBの負極には「ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)」という材料が主に使われますが、この材料は構造が非常に複雑です。ナトリウムがその内部の「どこに」「どのような順番で」貯蔵されるのかというメカニズムについては、世界中の研究者の間で長年議論が続いており、その決定的な証拠が求められていました。

研究内容と成果

 研究グループは、目に見えないほど小さな原子レベルの形を捉えることができる「中性子」の性質を利用しました。図1に示すように、測定に使用した中性子小角・広角散乱装置「大観」は、100ナノメートル(1万分の1ミリ)規模の構造を見る「中性子小角散乱」と、オングストローム(1000万分の1ミリ)規模の構造を見る「中性子広角散乱」を同時に行うことができる装置です。この「大観」で、広範囲にわたるマルチスケールな観察を実現しました。
 解析の結果、ハードカーボンへのナトリウム挿入は、図2及び以下に示すような3つのステップで進行することが明らかになりました:
ステップ1 表面への吸着:ナトリウムが炭素材料の表面や欠陥部分に吸着されます。
ステップ2 層の間に挿入:ナトリウムが炭素の層と層の間に入り込み、層の間隔を押し広げます。このとき、構造の乱れも増加することが確認されました。
ステップ3 ナノサイズの隙間に挿入:最後に、炭素構造の中にあるナノサイズの隙間をナトリウムが満たしていきます。
 さらに、理論計算(DFT計算[用語4])を組み合わせることで、実験で得られた炭素層の変化が理論的にも妥当であることを裏付けました。

図1 中性子小角・広角散乱装置「大観」の外観と「大観」で観測されるマルチスケールの様子。
図1 中性子小角・広角散乱装置「大観」の外観と「大観」で観測されるマルチスケールの様子。
図2 (上)ハードカーボンの模式図(炭素の層がランダムに凝集・積層)と(下)3つのステップでナトリウムイオンが挿入されていく様子。
図2 (上)ハードカーボンの模式図(炭素の層がランダムに凝集・積層)と(下)3つのステップでナトリウムイオンが挿入されていく様子。

本研究の意義、今後への期待

 本研究は、長年の謎であったハードカーボンへのナトリウム挿入プロセスを、マルチスケールな観測によって明確に示した画期的な成果です。本成果により、以下の展開が期待されます。
 ●電池設計の最適化:どの段階でどれだけのナトリウムが挿入されるかが分かったことで、「層の間隔」や「隙間の量」をどのように制御すれば容量を増やせるかという具体的な設計指針が得られます。
 ●資源問題の解決:ナトリウムイオン電池の性能が向上することで、リチウムに依存しない安価な蓄電システムの普及を加速させます。これは、エネルギー資源の安定確保と持続可能な社会の構築に大きく寄与するものです。
 ●さらなる進化:今後は、充放電を繰り返した際の構造の「可逆性」についても詳しく調査し、より長寿命で信頼性の高い次世代電池の開発を目指します。

研究支援

 本研究はJST GteX JPMJGX23S4、JSPS科研費23H01693, 23K26386, 24H00042, 22H05145, 24K00572, 25K01489、JSPS Core-to-Core Program JPJSCCB20240005、JST NEXUS-Ytec Y2024L0906032、JST FOREST JPMJFR202Vの助成を受けたものです。

著者の貢献

研究構想:大石 一城、五十嵐 大輔、多々良 涼一、館山 佳尚、駒場 慎一
実験:梅本 好日古、大石 一城、五十嵐 大輔、多々良 涼一、LIN Che-an、中本 康介、河村 幸彦、廣井 孝介、高田 慎一
研究統括:大石 一城、南部 雄亮、館山 佳尚、駒場 慎一
論文執筆・校閲:梅本 好日古、大石 一城、五十嵐 大輔、LIN Che-an、南部 雄亮、館山佳尚、駒場 慎一

用語解説

[用語1]
ハードカーボン:炭素材料の一つ。炭素原子が規則的に並んだ黒鉛に比べ、ハードカーボンは炭素の並びや結合の規則性が低く、ナトリウムイオンを挿入可能なため、大容量の負極材としてナトリウムイオン電池への適用が期待されています。

[用語2]
大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF):J-PARCは日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で茨城県東海村に建設し、運用している一大複合研究施設の総称です。その内の一施設であるMLFでは、加速した大強度の陽子ビームを炭素標的及び水銀標的に衝突させることで発生する大強度パルス中性子及びミュオンを用いて、物質科学、生命科学、素粒子物理学等の最先端の学術及び産業利用研究が行われています。

[用語3]
中性子小角・広角散乱装置「大観」:J-PARC MLFに設置された中性子実験装置です。「大観」では、幅広い波長域の中性子を試料に入射し、散乱した中性子を主に4つの検出器バンクで観測することにより、オングストローム(1000万分の1ミリ)からマイクロメートル(1000分の1ミリ)までの空間スケールを広く観測することができます。

[用語4]
DFT計算(密度汎関数理論計算):物質の中にある電子の動きを、量子力学に基づいて計算し、物質の性質をシミュレーションする手法です。本研究では、炭素の層の間にナトリウムが入ったときに、どのくらい層の間隔が広がるかを理論的に計算しました。この計算結果が実験データと一致したことで、観測された現象が正しいことを裏付けることができました。

論文情報

掲載誌 Chemical Science
タイトル Multiscale Insights into Sodium Storage in Hard Carbon from Operando Small- and Wide-Angle Neutron Scattering Measurements
著者 梅本 好日古、大石 一城、五十嵐 大輔、多々良 涼一、LIN Che-an、中本 康介、河村 幸彦、廣井 孝介、高田 慎一、南部 雄亮、館山 佳尚、駒場 慎一
DOI 10.1039/d5sc09600f新しいウィンドウが開きます

資料

研究者プロフィール

多々良 涼一新しいウィンドウが開きます
大学院工学研究院 准教授

お問い合わせ先

<研究に関すること>
大学院工学研究院 准教授 多々良涼一
メールアドレス: tatara-ryoichi-nx ynu.ac.jp

<報道に関すること>
総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: press ynu.ac.jp

(担当:リレーション推進課)


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