【プレスリリース】生物の体の大きさや寿命から、複雑な地球環境変化への種の応答を予測
本研究のポイント
・長期モニタリングデータと非線形時系列解析[用語1]を用いて、複数の地球環境変化要因が河口干潟の無脊椎動物に与える影響を定量化した。
・体の大きさ、移動性、寿命などの生物形質から、種ごとの環境変化への応答(感受性)を予測できることを示した。
・小型種や移動性の低い種は海面水温の上昇による負の影響を受けやすく、寿命の短い種ほど環境変化への感受性が時間とともに大きく変動することを発見した。
・生物形質と長期データを組み合わせることで、複雑な地球環境変化に対する生物多様性の将来応答を予測する新しい枠組みを提示した。
研究概要
横浜国立大学大学院環境情報研究院・総合学術高等研究院の佐々木雄大教授、鏡味麻衣子教授、下出信次教授、髙山佳樹助教、Earth Sciences New ZealandのAndrew Lohrer博士、Orlando Lam-Gordillo博士、東京都環境科学研究所の岩知道優樹博士、オークランド大学のSimon Thrush教授らの研究グループは、ニュージーランド北島の河口干潟に生息する無脊椎動物の長期モニタリングデータを解析し、体の大きさや寿命、移動性などの生物形質から、複雑な地球環境変化への種の応答を予測できることを明らかにしました。とくに、小型種や移動性の低い種は海面水温の上昇に対して一貫して負の影響を受けることが分かりました。さらに、これまで見過ごされがちだった「種の環境応答の時間変動」に着目したところ、寿命の短い種ほど環境変化への感受性が時間とともに大きく変動することが明らかになりました。本研究は、生物形質に基づいて生物多様性の将来変化を予測する新たな枠組みを提供するものです。
本研究成果は、国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました(2026年3月14日)。
研究成果
地球温暖化や水質変化、土砂や栄養塩の流入など、地球環境変化は単独ではなく複数の要因が同時に進行します。しかし、実際の自然環境の中で、それぞれの種がこうした複雑な環境変化にどのように応答するのかを予測することは、これまで非常に困難とされてきました。とくに、種の環境応答は一定ではなく、時間とともに変化することが知られています。しかし、その変動性を長期データから捉えた研究はほとんどありませんでした。
本研究では、ニュージーランド北島の河口干潟に生息する無脊椎動物相を対象に、10~32年にわたる長期モニタリングデータを解析しました。対象としたのは、二枚貝、多毛類、甲殻類などの底生無脊椎動物で、気候要因(海面水温、南方振動指数)、淡水影響の指標(浮遊物質量)、さらに干潟堆積物中の泥分、有機物量、クロロフィルa量といった局所的な環境要因をあわせて解析しました。このように、複数の地球環境変化の要因と生物相データを長期にわたって統合的に解析した点が、本研究の大きな特徴です。
その結果、体の大きさ、移動性、寿命といった生物形質から、種ごとの環境変化への応答を予測できることを明らかにしました。とくに、小型で移動性の低い種は、海面水温の上昇に対して一貫して負の影響を受けやすいことが分かりました。これは、実験室や短期観測では必ずしも明瞭でなかった傾向であり、複雑な自然環境の中で初めて明確に示された結果です。
さらに本研究では、種の環境応答の「時間変動」そのものが、生物学的な特徴によって予測できることを示しました。とくに、寿命の短い種ほど、環境変化への感受性が時間とともに大きく変動することが明らかになりました。これは、短命種が環境変動に対してより素早く、かつ不安定に反応することを示しており、種の将来予測を考える上で見過ごせない発見です。
以上の結果から、本研究は、複雑な地球環境変化の下でも、生物の「体の大きさ」「移動性」「寿命」といった比較的シンプルな特性から、どの種がどのような影響を受けやすいかを予測できる可能性を示しました。これは、生物多様性の将来変化を理解し、生物多様性保全において優先的に保全すべき種を見極める上で重要な前進となります。

今後の展開
河口干潟は、陸と海をつなぐ重要な生態系であり、水質浄化や物質循環、生物の生息場所の提供など、多くの生態系機能を担っています。一方で、気候変動に加え、土砂流入や富栄養化など、人間活動の影響を強く受けやすい環境でもあります。今後、こうした複数の環境変化が同時に進む中で、どの生物がより脆弱で、どの要因への対策を優先すべきかを見極めることがますます重要になります。
本研究で示した枠組みは、長期的な生物相および環境のデータと生物形質の情報を組み合わせることで、将来の地球環境変化のもとで生物がどのように応答するかを予測できる有力な手法です。今後は、より多くの種について詳細な形質データを蓄積し、他の沿岸域や海洋生態系、さらには陸上生態系にも適用することで、この手法の汎用性を検証していくことが期待されます。
本研究は、単に「どの種が減るか」を調べるだけでなく、種の応答が時間とともにどのように変わるかという視点の重要性を示しました。こうした考え方は、地球環境変化の影響評価や、生物多様性保全、沿岸域管理の高度化に貢献すると期待されます。将来的には、地域ごとの長期観測と生物形質情報を組み合わせることで、変化する環境の中でも生態系の利用と生物多様性保全の両立を図っていくことが期待されます。
謝辞
本研究は、日本学術振興会二国間交流事業(JPJSBP120241001)、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CREST(JPMJCR24J2)の支援を得て、実施されました。
用語解説
[用語1]
非線形時系列解析:二つの変数の関係について、通常の回帰分析のようにあらかじめ数式を仮定せずに解析できる手法です。複雑な動態を示す長期時系列データから、変数間の因果関係の検出や、変数の将来の挙動の予測が可能になります。
論文情報
| 掲載誌 | Nature Communications |
|---|---|
| タイトル | Biological traits predict species’ time-varying responses to multiple global change drivers |
| 著者 | Takehiro Sasaki, Yuki Iwachido, Orlando Lam-Gordillo, Katie M. Cook, Emily J. Douglas, Rebecca V. Gladstone-Gallagher, Barry Greenfield, Sarah Hailes, Kelly Carter, Naohiro I. Ishii, Yoshiki Takayama, Shinji Shimode, Maiko Kagami, Judi E. Hewitt, Simon F. Thrush & Andrew M. Lohrer |
| DOI | 10.1038/s41467-026-70606-w |
資料
研究者プロフィール
佐々木 雄大![]()
大学院環境情報研究院 教授
お問い合わせ先
<研究に関すること>
大学院環境情報研究院 教授 佐々木 雄大
メールアドレス: sasaki-takehiro-kw
ynu.ac.jp
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メールアドレス: press
ynu.ac.jp
(担当:リレーション推進課)

