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入学式&卒業式式辞

平成30年度入学式 式辞

  桜の花と共に若葉の緑が目に鮮やかなここ横浜において、新入生の皆さんを迎え、平成30年度入学式を挙行できますことは、横浜国立大学すべての構成員の大きな慶びです。皆さん、横浜国立大学への入学・進学おめでとうございます。列席の理事・副学長・監事・部局長・評議員をはじめ教職員一同を代表して、心よりお祝い申し上げます。そして何より、これまで皆さんを育て、温かく見守ってこられたご列席のご家族ならびにご関係の方々にも、お祝い申し上げます。

  今年、入学された皆さんは、学部生1,754名、大学院生947名の合計2,701名となります。ここには、海外からの留学生230名が含まれています。留学生の皆さんは、遠く祖国を離れ、異なる言語、文化、習慣のもとで、今日から横浜国立大学で学ぶことになります。本学には、1,000名を超える留学生が学んでおり、国際センターを中心に皆さんの学習や生活のサポートを最大限努力して行っています。母国の発展のため、そして母国と日本との友好を深めるため、充実した学生生活を送られるよう期待しています。

  さて、新入生の皆さん。本日から、学生生活をスタートするにあたり、大学コミュニティの一員として知って欲しい幾つかのことをお話ししたいと思います。まずは、本学の成り立ちについてです。

  横浜国立大学には長い歴史があり、三つの源流を持っています。最初のルーツは、明治7年・1874年に神奈川県内の横浜、藤沢、浦賀などに設置された小学校教員養成所です。ここから数えると本学は144年前に産声を上げたことになります。その後、神奈川師範学校となり、明治維新以来の日本の近代化を進めた学校教育を支えてきました。現在の教育学部の源流です。大正時代に入り、第一次大戦後の更なる産業発展を支える人材の育成のため、大正9年・1920年、横浜高等工業学校が設立されました。これが、現在の理工学部の源流です。さらに、ここ横浜も大きな被害を受けた関東大震災が発生した大正12年・1923年には、震災復興とアジア、中南米で活躍する人材育成のため、横浜高等商業学校が設立されました。現在の経済学部、経営学部の源流です。

  以上の伝統を踏まえ、昭和24年・1949年、師範、高等工業、高等商業という前身校を統合し、神奈川県に基盤を置く総合大学として、学芸学部、経済学部、工学部の3学部体制で発足しました。その後、時代の変化に対応して、学部と大学院の改革を進めてきました。
  大きな学部改革としては、まず昭和42年・1967年に経済学部から経営学部が分離独立しました。1960年代の高度経済成長の中で、日本企業の在り方や国際化に対応する経営学の研究と、経営学の素養のある人材育成を求める時代の要請を踏まえての開設でした。そして、昨年4月には、50年ぶりとなる都市科学部を新設しました。今後、世界の都市人口がますます増大する中、都市の在り方を考えることが人類そして地球の持続可能な発展にとって重要な課題となっています。それを踏まえ、グローバルとローカルが接する大都市、横浜・神奈川をフィールドにして、人文社会系と理工学系の融合をいかした都市科学に関する新しい人材育成を開始しました。

  本学には以上の5つの学部のほか、博士課程前期とも呼ばれる修士課程と博士課程後期からなる大学院も有しています。本学は、いち早く修士課程を整備し、博士課程後期に関しても工学研究科を皮切りに、理工学系、社会科学系に設置され、教育学系も東京学芸大学との連合大学院という形で参加しており、国際化時代をリードする先進的な研究と博士人材の育成を担ってきました。現在、教育学研究科、国際社会科学府、理工学府、環境情報学府、都市イノベーション学府という特色ある構成の五つの大学院を有し、研究大学としての発展を遂げてきました。本学は、伝統的に少人数によるゼミナールや研究室での学びを重視しており、学部生と大学院生が教員を囲みながら密接に学問交流をしているという、研究大学ならでは環境があります。
  また、5つの学部と5つの大学院が、横浜市保土ケ谷区常盤台にある、約46万平米、東京ドーム11個分、この会場近くにある横浜スタジアムを含む横浜公園の約7倍という一つの広いキャンパスにまとまって存在しており、学部や大学院の枠を超えた学生や教員の交流が活発であるということも特色です。

  以上のような歴史と伝統を踏まえ、平成16年・2004年、国立大学法人化を契機に、横浜国立大学の基本理念は何かについて、大学内で議論を重ね、次の四つの理念としてまとめました。   第一は、師範、高等工業、高等商業という戦前からの実学の伝統を踏まえた実践性(Be Active)です。これは、時代の変化に積極的に対応し、現実の生きた社会に原点を置き、教育と研究の成果をもって社会の福祉と発展に貢献するという精神です。第二は、先ほど述べたように新制大学の中で早くから大学院を整備し、研究大学としての実績を踏まえた先進性(Be Innovative)です。これは、常に最先端を目指し、新しいことに意欲的に取り組むチャレンジ精神でもあります。第三は、地元地域を中心に、市民社会、産業界、行政が抱える課題の解決に寄与するため、社会参加を積極的にすすめるという開放性(Be Open)です。第四は、国際性(Be Global)です。これは、グローバルに活躍できるコミュニケーション能力と異文化理解力を有し、諸外国との交流を積極的に進める精神です。これらは、開港以来の文明開化と高度産業の地であるここ横浜で大きく育った精神でもあります。

  この中で私たちが中心と考えるのは、実践性です。そこで、次に、大学での学びを考える上で、何故実践性が重要性であるのかについて話を進めます。 大学では、専門分野の理論を体系的に学ぶことが基本です。まず、実践という言葉とよく比較される“理論”とは何か、について考えてみましょう。通常、理論とは、自然や社会のなかに現れる様々な現象を法則的、統一的に説明できるように筋道を立てて組み立てられた知識の体系と定義されます。これは、時代の進展と共に精密化されていきます。その際、自然界も人間社会も変化発展しますから、今までの理論では説明の出来ない現象が発見され、それが理論の発展を促していきます。たとえば、物理学の世界では、ニュートンに代表される古典力学がまず成立しました。その後、分子、原子、さらには素粒子などの非常に小さなスケールの現象が扱えるようになってからは、古典力学では説明できない現象があることが分かってきて、量子力学が発達しました。また、経済学の世界では、個人や企業の自由な取引がされる市場・マーケットを中心におく経済学の理論、ミクロ経済学が、アダムスミスらにより確立しました。その後、1929年の世界大恐慌を契機として、市場の仕組みだけでは不況から脱出できないことから、ケインズは政府による有効需要政策を唱え、マクロ経済学といわれる分野を発達させました。このように、理論は、変化・発展する現実に対してその有効性が検証されることが必要で、これが実践或いは実験という事です。
  検証されることで、理論が正当化される、或いは、それが否定されて新しい理論が生まれ、それがまた検証される、というように、理論と実践は往復する関係にあるといえます。

  この関係は、学問一般について成り立ちますが、本学では、なぜ、実践性を強調するのでしょうか。そこには、二つの理由があります。 一つ目は、「生きた現実」と関わることで、ふとした発見、疑問、驚きなどの「気づき」を得ることができるからです。たとえば、本学には実践的な教育として、ゼミナールや研究室の外、実習科目や演習科目を多数用意しています。演習科目の一つである地域交流科目では、横浜・神奈川地域において実際に生じている少子高齢化、商店街活性化、防災減災などの地域課題を現場の市民、企業、行政の皆さんと一緒に考える「地域課題実習」があります。実際に現場に出ると、理論がそのままでは通用しない、或いは現実の問題の解決のためには解明されていないことが多いなど、知れば知るほど分からないことが増えてきます。このような「気づき」をきっかけとして、もっと専門を深めたい、或いは他の専門分野を学びたい、周りの学生や教員と意見交換したいという内面からわき上がるような意欲を持つことができ、結果として、より深い学びや独自の研究に繋がります。大学とは、与えられた学問の体系を学ぶだけでなく、このような実践を通じて学問を発展させていく場でも有る、ということを強調したいと思います。

  二つ目は、現実社会に貢献することを目指すという点です。その例として、本学工学部を昭和41・1966年に卒業された藤嶋昭名誉博士の研究を紹介します。藤嶋先生は、若い頃、酸化チタンによる光触媒反応を発見されました。光触媒反応とは、酸化チタンの電極と白金の電極に強い光を当てるとそれぞれの電極から酸素と水素が発生し、水が分解されるというものです。当時は、世界的な科学誌「ネイチャー」に掲載され、クリーンエネルギーとしての水素を発生させる画期的な技術として反響を呼びました。しかし、水素を太陽エネルギー変換で得るには極めて長い時間がかかり、実用化は難しい事が分かりました。そこで注目したのは、酸化チタンの表面に光が当たると強い酸化力が生じ、それを活かせば有害物質が分解出来ると言うことでした。その後、人々の快適な生活空間を作ることを狙いとして、大腸菌を殺す、油汚れを分解してきれいな表面を作る、など応用研究を進め、現在では病院の手術室などへの抗菌・抗ウィルスのための光触媒タイル、東京ドームの光触媒テントなど様々な分野で実用化され、人々の快適な暮らしの向上に大きな貢献をされています。藤嶋先生は、これらのご業績により昨年秋に文化勲章を受章されました。このように、理論的研究だけでなく、実践的研究もすすめ、社会貢献を目指すことを本学は重視していることを理解してください。

  以上のように横浜国立大学は、実践的教育と研究を柱として、国内外で活躍する11万人を超える卒業生・修了生を輩出してきました。皆さんが、生きた現実社会を知り、将来の人生設計を考える上で、先輩である卒業生との交流も大事です。本学には、卒業生の組織として、教育人文系として友松会、社会科学系として富丘会、理工学系として名教自然会という同窓会組織があり、それぞれの専門性を活かした就職支援などの活動をして頂いています。また、卒業生すべてと学生、教職員を含む大学支援組織として校友会が三年前に発足しました。校友会では、学部や同窓会の枠を超えた横断的な交流や海外同窓会支援などの活動をして頂いています。国内外で活躍する卒業生との絆を深めるためにも、校友会や各同窓会の活動はとても大事です。新入生の皆さんが、校友会や同窓会の催しに積極的に参加されることで、横浜国立大学の一員として、本学の更なる飛躍への活力を与えてくれるものと期待しています。

  最後に結びとして、実践性に関わる藤嶋先生の言葉を皆さんに送ります。
  「重要なのは、本物であること。誰がやっても効果が分かり、自信を持って進めるものしか生き残れない。理論だけでなく、いかに日常生活で使えるかが大切である」

  新入生の皆さんが、本学の学部、大学院において、専門を深く学び、実践にも心がけ、現代社会の諸問題の解決に向けて挑戦し、本物を追求できる人間として成長されることを切に願っています。そして、この四月から新しい横浜国立大学の歴史を刻むべく、学生の皆さんとともに私たち教職員一同も努力することをお約束し、お祝いの言葉といたします。

平成30年4月3日
国立大学法人 横浜国立大学長

長谷部勇一

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