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入学式&卒業式式辞

平成31年度入学式 式辞

  桜の花が目に鮮やかなここ横浜において、新入生の皆さんを迎え、平成三十一年度入学式を挙行できますことは、横浜国立大学すべての構成員の大きな慶びです。皆さん、横浜国立大学への入学・進学おめでとうございます。列席の理事・副学長・監事・部局長をはじめ教職員一同を代表して、心よりお祝いを申し上げます。そして何より、これまで皆さんを育て、温かく見守ってこられたご列席のご家族ならびにご関係の方々にも、お祝い申し上げます。

  今年、入学された皆さんは、学部生1,746名、大学院生906名の合計2,652名となります。ここには、海外からの留学生213名が含まれています。留学生の皆さんは、遠く祖国を離れ、異なる言語、文化、習慣のもとで、今日から横浜国立大学で学ぶことになります。本学では、1,000名を超える留学生が学んでおり、国際教育センターでは、留学生の皆さんの学習や生活のサポートを最大限努力して行っています。母国の発展のため、そして母国と日本との友好を深めるため、充実した学生生活を送られることを願っています。

  さて、新入生の皆さん。本日から、学生生活がスタートします。大学とは、学生、教員、職員からなる組織であり、一種の共同体・コミュニティでもあります。今日からその一員と成るにあたって、心得て欲しい四つのことをお話しします。

  一つ目は、本学の成り立ちです。横浜国立大学には、三つの源流があります。最初のルーツは、明治七年・一八七四年に神奈川県内に設置された小学校教員養成所です。その後、神奈川師範学校となり、明治以来の日本の近代化に貢献した学校教育を支えてきました。現在の教育学部の源流です。大正時代に入り、更なる産業発展を支える人材育成のため、大正九年・一九二〇年、横浜高等工業学校が設立されました。現在の理工学部の源流です。さらに、ここ横浜も大きな被害を受けた関東大震災が発生した大正十二年・一九二三年には、震災復興とアジア、中南米で活躍する人材育成のため、横浜高等商業学校が設立されました。経済学部・経営学部の源流です。

  以上の伝統を踏まえ、昭和二四年・一九四九年、師範、高等工業、高等商業という前身校を統合し、学芸学部、経済学部、工学部の三学部体制で本学は発足しました。その後、時代の変化に対応して、学部と大学院の改革を進めてきました。

  学部改革としては、まず昭和四二年・一九六七年に経済学部から経営学部が分離独立しました。高度経済成長の中で、日本企業の在り方や国際化に対応する経営の研究と人材育成を求める時代の要請を踏まえたものでした。そして、二年前には、都市科学部を五十年ぶりに新設しました。今後、世界の都市人口がますます増大する中、都市の在り方を考えることが人類そして地球の持続可能な発展にとって重要な課題となっています。その解決のため、グローバルとローカルが接するここ横浜をフィールドにして、人文社会系と理工系の融合をいかした都市科学に関する新しい教育を開始しました。本学には以上の五学部のほか、博士課程前期とも呼ばれる修士課程と博士課程後期からなる大学院も有しています。本学は、いち早くから修士課程を整備し、博士課程後期に関しても理工系、社会系に設置され、教育系も東京学芸大学との連合大学院に参加し、全ての分野で先進的な研究と博士人材の育成を担ってきました。現在、教育学研究科、国際社会科学府、理工学府、環境情報学府、都市イノベーション学府というユニークな構成の五つの大学院を有し、研究大学としての発展を遂げてきました。

  二つ目は、本学の理念・特色についてです。平成十六年・二〇〇四年に、国立大学法人化を契機に、横浜国立大学の基本理念は何かについて、大学内で議論を重ね、次の四つの理念としてまとめました。 第一は、師範、高等工業、高等商業という戦前からの「実学」の伝統を踏まえた実践性(Be Active)です。これは、現実の生きた社会に原点を置き、教育と研究の成果をもって社会の福祉と発展に貢献するという精神です。第二は、研究大学としての実績を踏まえた先進性(Be Innovative)です。これは、常に最先端を目指し意欲的に取り組むチャレンジ精神でもあります。第三は、地元を中心に、市民社会、産業界、行政が抱える課題解決に寄与するため、社会参加を積極的にすすめるという開放性(Be Open)です。第四は、国際性(Be Global)です。これは、世界で活躍できる高い専門性とコミュニケーション能力を有し、諸外国との交流を積極的に進める精神です。以上は、開港以来の文明開化と高度産業集積の地であるここ横浜で大きく育った精神でもあり、是非、皆さんも今後共有して下さい。

  三つ目は、大学は教育だけでなく、研究するところである、という点です。研究とは、自ら設定した課題に対して、先行する研究を踏まえ、観察、実験、調査などで明らかになった事実やデータを元に、新たな命題を体系的、論理的に表現することです。言い換えると、高校までの教育が、正解のある問題の解き方を学ぶことであったのに対して、大学では、正解の無い問題を自らが設定し、過去の研究成果の到達点と残された点を明確にした上で、自らのオリジナルな解を誰にとっても分かりやすい形でまとめていくことにあります。その集大成として卒業論文、修士論文、博士論文を書いていくわけですから、大学において学生は教員と同じ研究者仲間でもあります。もちろん、最初は、専門分野の基礎的な知識と広い教養を学ぶことが重要です。しかし、高学年になればなるほど、研究者としての問題意識を高め、ゼミナールや研究室で教員や仲間の学生と共に討論をしながら研究をしていく、という点を忘れないでください。

  四つ目は、本学は実践性を重視しているという点です。先の四つの理念の中でも、特に実践的な研究と実践的な教育を本学は推進しています。それは何故でしょうか。まず、「実践」について、「理論」と対比しながら考えてみましょう。通常、理論とは、自然や社会のなかに現れる様々な現象を、法則的に説明できるように筋道を立てた知識の体系と定義されます。これは、時代の進展と共に精密化されていきます。その際、自然界も人間社会も変化発展しますから、今までの理論では説明の出来ない現象が発見され、それが理論の発展を促していきます。たとえば、天文学の世界では、かつて天動説が一般的でしたが、観測技術などが発達したことで地動説に取って代わられるようになりました。理論は、変化・発展する現実に対してその有効性が試されることが必要で、これが実践或いは実験による検証という事です。
  検証されることで、理論が正当化される、或いは、古い理論が否定されて新しい理論が生まれるというように、理論と実践は往復する関係にあるといえます。この関係は、学問一般について成り立ちますが、本学では、なぜ、実践性を強調するのでしょうか。それは、「生きた現実」と関わることで、ふとした発見、疑問、驚きなどの「気づき」を得ることができるということ、そして地域の課題を「本当に解決したい」という強い意欲を持つことができるからです。たとえば、少子高齢化、商店街活性化などの地域課題を現場の市民、企業、行政の皆さんと一緒に取り組み、実際に現場に出てみると、理論がそのままでは通用しない、或いは現実の解決のためには原状の理論では不充分であるなど、知れば知るほど分からないことも増えてきます。このような「気づき」がきっかけとなり、もっと専門を深めたい、課題を解決したいという強い意欲を持って、より深い学びと研究に取り組めるようになります。本学には、地域連携推進機構を中心に、生きた現実に関わる様々なプロジェクトを進めています。是非、この輪に加わり、実践性を身につけて下さい。

  結びとして、これからの学生生活で以上の四つのことをふまえた上で皆さんが成長し続けるために、物理学者アインシュタインの言葉を贈ります。学べば学ぶほど、無知であることを知る。自分の無知に気づけば気づくほど、より一層学びたくなる、という主旨で次のように述べています。
  The more I learn, the more I realize I don't know. The more I realize I don't know, the more I want to learn.

  新入生の皆さんが、本学の学部、大学院において、専門を深く学び、実践にも心がけ、現代社会の諸問題の解決に向けて研究し、人間として成長されることを切に願っています。そして、この四月から新しい横浜国立大学の歴史を刻むべく、学生の皆さんとともに私たち教職員一同も努力することをお約束し、お祝いの言葉といたします。

平成31年4月2日
国立大学法人 横浜国立大学長

長谷部勇一