【プレスリリース】表面前処理なしでウェーハ接合を促す「自己活性化」材料薄膜同士の接合メカニズムを発見
本研究のポイント
・原子層堆積法(ALD)で形成した酸化アルミニウム(Al₂O₃)薄膜が、従来必要とされてきたプラズマ処理を行わなくても、強固かつボイドのないウェーハ接合を実現する「自己活性化」特性を持つことを発見しました。
・自己活性化の起源が、Al₂O₃表面の高い極性とルイス酸性、豊富な水酸基(OH)ネットワーク、および加熱による非晶質AlOₓ構造の再配列にあることを、表面・界面分析により明らかにしました。
・300mmウェーハでの接合に成功するとともに、成膜後2カ月以上経過しても接合性能がほとんど低下しないことを確認しました。次世代3D半導体の製造工程の簡素化、低損傷化およびプロセス自由度の向上が期待されます。
研究概要
横浜国立大学 総合学術高等研究院の井上 史大 教授、同大学総合学術高等研究院のAnton Myalitsin IMS客員助教、同大学 大学院理工学府博士後期課程の北川 颯人氏、博士前期課程の山本 泰輔氏らと、株式会社KOKUSAI ELECTRICの李 仁佑氏、町田 俊太郎氏、湯浅 和宏氏らの研究グループは、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition:ALD)[用語1]によって形成した酸化アルミニウム(Al₂O₃)[用語2]薄膜が、プラズマ処理や化学機械研磨(CMP)を行わなくても直接接合[用語3]できる「自己活性化[用語4]」特性(図1)を持つことを発見しました。
本研究成果は、米国化学会が発行する材料科学分野の国際学術誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に、2026年9月3日(現地時間)付で掲載されました。
社会的な背景
半導体デバイスを垂直方向に積層する3次元集積[用語5]技術では、異なるウェーハやチップを原子レベルで密着させる直接接合およびハイブリッド接合が重要です。従来、酸化膜同士を十分な強度で接合するためには、接合直前にプラズマを照射し、表面を活性化する工程が不可欠と考えられてきました。しかし、プラズマ処理は表面下へのプラズマ損傷(Plasma Induced Damage:PID)や過剰な水分の導入を引き起こす場合があり、またプラズマ処理後から接合までの待機時間(キュータイム[用語6])を厳密に管理する必要もありました(図2)。
研究成果
本研究グループは、厚さ約5 nmのALD-Al₂O₃薄膜を300 mmシリコンウェーハ上に形成し、プラズマ処理を行わずに接合しました。その結果、接合界面全体にわたってボイド[用語7]のない接合が形成され、300度の熱処理後には、ウェーハの研削やCMPなどの後工程に適用できる十分な接合強度が得られました(図3)。さらに、適切な成膜後熱処理や酸化シリコン(SiO₂)層の挿入によって界面の水分を制御することで、接合強度を一層向上できることを示しました。
また、和周波発生分光法(SFG)[用語8]、X線光電子分光法(XPS)、昇温脱離分析(TDS)、透過電子顕微鏡(TEM)、電子エネルギー損失分光法(EELS)などを組み合わせて表面および接合界面を詳細に解析しました。その結果、Al₂O₃表面には水素結合した水酸基のネットワーク[用語9]が形成されており、これが室温での初期接着を可能にすることが分かりました。さらに、接合後の熱処理により、水酸基の脱水縮合反応[用語10]に加えて、低温で形成された非晶質AlOₓ構造がより安定なAl–O結合ネットワークへ再配列することが、強固な接合の形成に寄与することを明らかにしました。
本研究では、成膜から接合までの待機時間を延ばしても、ALD-Al₂O₃の接合性能が少なくとも2カ月間ほぼ一定に保たれることも確認しました。プラズマによって一時的に形成される活性表面とは異なり、自己活性化はAl₂O₃材料そのものの極性や構造に由来するため、長期間にわたって接合可能な状態が維持されると考えられます。
このALD-Al₂O₃に発現する特異な現象はプラズマ処理に依存してきた半導体接合技術に新たな材料設計指針を示すものです。特に、3D集積ロジック半導体の裏面給電配線形成に用いられるキャリアウェーハとの接合において、従来のプラズマを用いた接合に対して大きな利点となり得ます。今後、ロジック、メモリ、イメージセンサー、チップレットなどを多層化する3次元集積技術において、製造工程の簡素化、低温化、低損傷化および接合材料の多機能化につながることが期待されます。
今後の展開
本研究により、ALD-Al₂O₃がプラズマ処理なしで直接接合できる自己活性化材料であることと、その科学的なメカニズムが明らかになりました。
プラズマ工程を省略できれば、接合装置構成の簡素化、製造コストの低減、プラズマによる材料損傷の回避、工程間の待機時間制約の緩和とばらつき低減が期待されます。また、微細なチップレット、裏面電源供給網、ロジック・メモリ積層、イメージセンサーなどへの展開も期待されます。
今後は、Al₂O₃膜の成膜条件、膜厚、熱処理および下地材料を最適化するとともに、銅配線を含むハイブリッド接合への適用、接合界面の電気的・熱的信頼性評価を進めます。
さらに、今回得られた「高い極性」「ルイス酸性[用語11]」「低温成膜された非晶質構造」という材料設計指針に基づき、Al₂O₃以外の自己活性化接合材料を探索します。これにより、3次元集積に用いる接合材料の選択肢を拡大し、多層化・異種材料集積に適した新しい接合プラットフォームの構築を目指します。
謝辞
本研究は、科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)「前工程/後工程の融合による高エネルギー効率Beyond2nmデバイスの研究開発」(課題番号:JPMJTR241A)の支援を受けて実施されました。
用語解説
[用語1]
原子層堆積法(ALD):原料ガスを交互に供給し、薄膜を形成する成膜技術です。原子層レベルで膜厚を制御でき、段差や微細構造の表面にも均一な膜を形成できます。
[用語2]
酸化アルミニウム(Al₂O₃):アルミニウムと酸素からなる絶縁材料です。半導体製造では、高い絶縁性、耐熱性および化学的安定性を持つ薄膜材料として利用されています。本研究では、低温ALDによって形成した非晶質のAl₂O₃薄膜を接合材料として使用しました。
[用語3]
直接接合:接着剤を用いず、平坦化された材料表面同士を原子・分子レベルで密着させて接合する技術です。絶縁膜同士を接合するフュージョン接合や、絶縁膜と金属配線を同時に接合するハイブリッド接合があります。
[用語4]
自己活性化:外部からプラズマなどの活性化処理を行わなくても、材料が持つ固有の表面化学状態によって直接接合できる性質を、本研究では「自己活性化」と呼んでいます。
[用語5]
3次元集積:複数の半導体チップやウェーハを垂直方向に積層し、短い配線で接続する技術です。半導体素子を水平方向に微細化するだけでなく、異なる機能を持つロジック、メモリ、センサーなどを立体的に組み合わせることで、高性能化と低消費電力化を図ります。
[用語6]
キュータイム(Queue time):成膜、洗浄、プラズマ処理などの工程を行ってから、次の接合工程を実施するまでの待機時間です。表面の活性が時間とともに低下する場合、厳しい時間管理が必要になります。
[用語7]
ボイド:接合界面に残る空隙や未接合領域です。ボイドは接合強度、信頼性および熱・電気特性を低下させる原因となるため、半導体製造ではボイドのない接合が求められます。
[用語8]
和周波発生分光法(SFG):異なる周波数の光を材料表面に照射し、その周波数の和に相当する光を検出する非線形分光法です。表面や界面に存在する分子の結合状態を高感度に調べることができます。
[用語9]
水酸基(OH)のネットワーク:材料表面に存在する水酸基や水分子が、水素結合によって相互作用した構造です。本研究では、このネットワークが室温での初期接着を可能にすると考えられます。
[用語10]
脱水縮合反応:2つの水酸基などが反応して水分子を放出し、新しい共有結合を形成する反応です。本研究では、Al–OH同士などが反応し、強固なAl–O–Al結合やAl–O–Si結合を形成すると考えられます。
[用語11]
ルイス酸性:電子対を受け取る性質です。Al₂O₃中のAl³⁺は高いルイス酸性を持つため、水分子や水酸基との相互作用を促進すると考えられます。
論文情報
| 掲載誌 | ACS Applied Materials & Interfaces |
|---|---|
| タイトル | Self-Activated Direct Bonding with a Highly Polar Atomic-Layer-Deposited Film for 3D Integration |
| 著者 | Hayato Kitagawa, Taisuke Yamamoto, Jenyu Lee, Shuntaro Machida, Kazuhiro Yuasa, Anton Myalitsin, Fumihiro Inoue |
| DOI | 10.1021/acsami.6c08143 |
資料
研究者プロフィール
井上 史大![]()
大学院工学研究院/先端科学高等研究院/総合学術高等研究院 教授
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大学院工学研究院/先端科学高等研究院/総合学術高等研究院 教授 井上 史大
メールアドレス: inoue-fumihiro-ty
ynu.ac.jp
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(担当:リレーション推進課)

