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挑戦する横国の学生たち

VENTURE SPIRIT

008

鶏も養鶏家にもやさしい未来を。
養鶏という産業の変革をめざします。

養鶏業界に変革を。そんな大きな目標を掲げ2020年7月にEggSmart株式会社を立ち上げた宮崎さん。彼が思い描く「鶏にも養鶏家にも幸せな未来」とは。若きアントレプレナーの思いに迫ります。

宮崎 将明

経営学部

宮崎 将明

羽を広げることもできない
鶏たちを救いたい

——なぜ養鶏という分野に興味を持ったのでしょうか?

1年次の春休みに沖縄の養鶏場でインターンを経験したことが最大のきっかけです。もともと動物が好きだったこともあり、養鶏に関心はあったのですが、そこで目にしたのはあまりにも過酷な現実でした。鶏たちは薄暗いケージのなかにぎゅうぎゅう詰めで飼育されています。一羽あたりのスペースは限りなく切り詰められ、羽を広げることもできません。何より辛かったのが、毎朝の点検です。檻の隙間から無理やり出した頭を戻せなくなって、そのまま息絶えている鶏を、毎日何羽も目にしました。

——どうしてそのような過酷な環境を強いられているのでしょう?

産業の構造的な問題です。養鶏というのは薄利多売のビジネスで、生産性をあげようとすると鶏の飼育スペースを削減せざるを得ません。本来はもっと動物の福祉を追求するべきですが、そのためのコストを生産者だけに押しつけるのは間違っています。むしろ中間搾取をしている業者を省いたり、消費者がもっと高い価格で卵を購入したりすることで生産者にしっかりと利益を還元し、その上で動物の福祉も実現されるべきです。そんな鶏も養鶏家も幸せになれる未来をつくるには、養鶏の新たなビジネスモデルを立ち上げるしかない。それは業界のしがらみに囚われない、自分のような新参者にこそできることなのではないか。そう考え、起業という道を志すようになりました。

高付加価値の卵を扱う
プラットフォームを

——具体的にはどのような変化を起こそうと考えたのですか?

平飼いの普及と、それに伴う卵の高付加価値化です。平飼いとは、鶏を地面に放して飼う養鶏法のこと。ケージでの飼育に比べて、同じ面積で飼育できる鶏の数は減りますが、その分だけ鶏にかかる負荷を軽減できます。平飼いで育てた鶏の卵は、弾力があって力強いのが特徴です。ストレスが少ない環境で育つ鶏は病気にも強く、ワクチンの摂取量が少なくて済むため、よりオーガニックな卵であるということも付加価値になります。

——消費者にとっても鶏にとってもいいことづくめですね。

実は当初は「鶏にやさしい飼育方法を」という理念だけが先行していて、消費者のメリットまでは考えきれていませんでした。それに気づけたのは、かながわ学生ビジネスプランコンテスト(WOW KANAGAWA)に参加したからです。選考の過程でメンターの方から「ビジネスとしての勝ち筋」を意識するよう指摘されました。消費者にもメリットがなければ、ビジネスとしては不十分です。そうしたアドバイスを踏まえて生まれたのが、「平飼いで育てられた鶏の卵だけを扱うBtoBプラットフォーム」というアイデアでした。

——具体的にはどのようなプラットフォームを構想したのでしょう?

平飼いで育てた鶏の卵を販売したい養鶏家と、高品質な卵を求めるレストラン等を結びつけるプラットフォームです。養鶏家にとってのメリットは、市場価格に左右されずに自由な価格で販売しやすくなり、中間マージンも抑えられること。それによって高価格の卵を販売しやすくなります。買い手側のメリットは、個人消費者を対象とした既存のBtoCプラットフォームとは異なり、各養鶏家の出荷能力といった取引に欠かせない情報をプラットフォーム上で簡単に比較できる点です。高品質な卵を安定してスムーズに仕入れられるようになります。こうしたアイデアを評価していただきWOW KANAGAWAで優勝できたことは、起業への弾みとなりました。

めざすのは平飼いの
リーディンングカンパニー

——7月に「EggSmart」を起業されて以来、現在はどのようなこと取り組んでいますか?

実はプラットフォーム事業の展開よりも先に、まずは平飼いの養鶏場を運営しようと考えています。沖縄の養鶏家の方の土地をお借りして、約500羽の鶏を平飼いで飼育する計画です。私自身、10月からは現地に渡り、オンラインで授業を受けながら、午前中を鶏の世話に充てようと思っています。まずは自分たちで高付加価値の卵を生産・販売したという実績があった方が、プラットフォームビジネスにも説得力が生まれると考えての決断です。必ず成功させたいですね。

——EggSmartの今後のビジョンを教えてください

平飼いのリーディングカンパニーをめざします。最終的に目標に掲げているのは、現在日本では5%前後しかない平飼いで育てられた鶏の割合をヨーロッパ並みの50%まで伸ばすこと。まずはここから数年でその割合を10%まで持っていくとともに、EggSmartのプラットフォームが平飼い市場のなかでトップシェアを獲得できるようにしたい。プラットフォーム事業だけではなく、養鶏場の運営やコンサルティングなどにも力を注いでいきます。鶏と養鶏家の双方が幸せになる未来をつくるために、さまざまな角度からアプローチしていくつもりです。

掲載:2020年10月

MY MEMORY

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1.インターンシップで訪れた沖縄の徳森養鶏場のみなさんと。2.見事優勝に輝いた、かながわ学生ビジネスプランコンテスト。3.学生兼フリーランスとして働くふたりの仲間とともに起業を果たす。4.2020年には横浜銀行、横浜国立大学、神奈川県から支援を受けて、資金調達に成功。

鶏にも生産者にもやさしいビジネスを。

現在、日本では5%ほどしか平飼いが行われていないが、欧州では50%以上で平飼いが行われている。日本やアジアにおいて欧州基準の平飼いを普及する、そのリーディングカンパニーとなることがEggSmartの狙いだ。
EggSmart株式会社

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