挑戦する横国の学生たち
量子コンピュータの分野で最先端を走る小坂英男研究室。伊藤さんはここで、学部生が最先端研究に参加できるプロジェクト「ROUTE」(Research Opportunities for UndergraduaTEs)に参加し、2年次から研究に励んでいます。「大学院を修了するまでには、ダイヤモンド量子コンピュータを世界中に公開したい」と意気込む伊藤さんに、研究にかける情熱を語っていただきました。
理工学部数物・電子情報系学科
中学の頃から理科が大好きで、高校に入ると物理に夢中になりました。身の回りのことから宇宙の成り立ちまであらゆる現象を説明できることが面白くて、授業では習わないことまで調べ尽くしていたほどです。量子力学という分野があることを知ると、たちまち虜になります。これまでのコンピュータの概念をくつがえす異次元の計算速度、そこから生じるセキュリティリスクを抑えるためのさらなる量子研究の日進月歩に、大きなロマンを感じたのです。大学を選ぶときには「量子コンピュータの分野で最先端の研究室があるか」を基準にしました。小坂教授は、国内随一の量子コンピュータの権威です。「絶対にここで研究したい」と心に決めて横国に入学しました。
実のところ、入学したらすぐにでも入りたかったんです。ところが1年次はコロナ禍で参加がかなわず、もどかしい思いをしました。そこで2年次の夏休みには研究室の門を叩き、小坂教授に研究への強い意志を伝えます。教授は温かく迎えてくださり、晴れて研究がスタートしました。
私の役目は、量子コンピュータに用いる基盤の設計・シミュレーションから実験までさまざまです。作業量が膨大なので、大学の同期たちにも手伝ってもらいながら進めています。研究室に入ってから1年ほどが経った現在は、チームをまとめたり、同期からの疑問に答えたりするのも役割のひとつです。
タイヤモンドを使った量子コンピュータの開発です。タイヤモンドの分子構造の一部が基盤に使えることはわかっていますが、実際に量子コンピュータを実装してさらにクラウド公開した例はまだ世界でひとつもありません。成功すれば、まさに世界初となります。
この開発に風穴が開いたのは、IBMの研究チームが私たちの研究室を訪れたときのこと。彼らはソフトウェア開発キット「Qiskit」を紹介してくれました。このキットを使えば、クラウド上でダイヤモンド量子コンピュータを公開できる。そのことに衝撃を受け、私たちもQiskitを使った開発に乗り出しました。
まだ誰も実現していない領域をひた走るワクワク感です。産学でのコラボレーションからも刺激を受けることばかりです。IBMが立ち上げたQiskitのコミュニティで情報交換をすると、量子コンピュータに関する最新情報が即座に得られます。自分たちの専門分野でさえまだ知らないことが世界にはたくさんある。それを肌で知ることで「もっと頑張らなければ」とモチベーションが高まります。
さまざまな成長を実感しています。研究に必要な知識やスキルが身についたことは言うまでもありません。基本的なことですが、教授へのこまめな「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)も心がけるようになりました。研究室に入って間もない頃、コンピュータのシミュレーションの条件に誤りがあり、苦労して得た結果が無駄になったことがあったのです。今は少しでも疑問に思ったら、必ず確認するよう肝に銘じています。
知識の点と点が結びついて、線になる。この感覚を肌で感じられることこそが、ROUTEに参加する醍醐味ではないでしょうか。研究では、授業で学んだあらゆることが活きているといっても過言ではありません。「量子力学」の授業はその代表例ですが、一見関係ないように思える学びが研究を進めるなかで不意に突破口になったことも幾度となくあります。「この知識がいつか研究に結びつくかもしれない」と思うと、授業の受け方もがらりと変わります。毎回の授業にいっそう身が入るようになり、気づいたら学部での成績はトップレベルになっていました。
同時に思い至ったのは、授業はあくまで学問の第一歩に過ぎないということです。その先に進めるかどうかは自分次第。1年次は授業を理解するだけで精一杯でしたが、今では教わった内容にとどまらずプラスアルファで調べるようになりました。
現在の目標は、大学院を修了するまでに小坂研究室の量子コンピュータを全世界に公開すること。そのために今後も研究に打ち込みたいです。
1.光学系のアライメントをしている様子。実験は機械制御で行うため、プログラミングをする一方で、アライメントの一部は手で行います。2.研究室での集合写真。小坂研ではよく息抜きに、遠足に行ったりします。写真はお花見に行った時のものです。3.シミュレーションの写真。基板の設計のために、様々な形状に対してシミュレーションを行いました。4.量子コンピュータの写真。基板の上にのっている銀テープで固定された四角い物体がダイヤモンドで、その表面にさらに金色の回路がプリントされています。
学部から最先端の研究に参加できる「ROUTE」
Research Opportunities for UndergraduaTEsの略称。通常、研究室に配属されるのは4年次からであるところ、1年次から研究をスタートできる。早い段階から研究の面白さを知るとともに、学部の授業でもいっそう能動的に学べることを狙う。
http://es-route.ynu.ac.jp/