創作ダンスの真髄は、
ひとつの主題をチームで表現すること。

テーマの表現をめざす
創作ダンス

——創作ダンスについて教えてください。

今中：ヒップホップやバレエ、古典舞踏などとは異なり、創作ダンスには定型的な振り付けや動きがあるわけではありません。伝えたいテーマにふさわしい表現を探求しながら、テーマに沿うような展開や構成の開発、衣装製作、振り付けなどを、すべて一から作り上げます。テーマ性が強いという点が創作ダンスの特徴です。楽曲に合わせてうまく踊るというよりは、何を表現するかが大事になります。『格好よかった』という感想で終わらずに『こういうテーマを伝えたかったのかな』と考えてもらえる作品を作ろうと意識していますね。

——おふたりのダンス経験や部での役割について教えてください。

今中：中高一貫校で６年間創作ダンスを経験して、大学でもダンスを続けたいと考えたので部の過去作品や受賞歴を調べて『自分もこの大学の作風で踊りたい』との思いで本学を志望しました。今は部長を務めています。

外山：中学校までヒップホップダンスをやっていました。創作ダンスは未経験で大学から始めましたが、作品の制作を担当しています。今回の受賞作では、３名いる制作者のうちの一人を僕が務めました。

——作品の制作について教えてください。

外山：制作はテーマ設定から始まります。テーマはどんなものでも構いません。日常的な動作から出発してもいいし、小説や芸術作品をモチーフにしても構いません。制作者は部員の意見を取りまとめながら、ひとつの作品を作りこんでいきます。決まった正解がなく、どこまでも追及できてしまう創作ダンスにおいて、舵取り役は重要です。

「軽さ」のテーマを掘り下げ、
ジャコメッティにたどり着いた

——今回の受賞作「I〜アルベルト・ジャコメッティの彫像にみる〜」は、どのような経緯で選ばれたのでしょうか。

外山：当初のテーマ候補は小説『存在の耐えられない軽さ』でした。でも、「軽さ」をダンスで表現するのがどうにも難しくて。そんなとき、部員の誰かがヒントとしてジャコメッティの彫刻作品を挙げてくれたんです。その体躯の細さや脆さ、『細く削られても屹立を続ける人間の姿』が重要なモチーフに感じられ、最終的には小説ではなくジャコメッティをテーマに据えることにしました。その方が人間の本質に迫れると思ったんです。

今中：テーマを理解するために、自分自身が傷ついた経験や親との喧嘩をあえて思い出し、メンタルが『削られる』様子を回想したりもしました。目に見えない心の動きを表現につなげるには、自分なりに咀嚼することも大事なのかなと思います。

動詞の言葉が導く
振り付けや衣装の探究

——テーマを決めた後はどのように制作を進めるのですか？

外山：連想される『動き』を各自が考えます。パキパキした動きなら細さや脆さを表現できそうだね、とか。そうして徐々に作品の流れを構成していきます。このとき、自分たちは動詞の言葉を大事にします。ジャコメッティであれば、『削る』や『削ぐ』などの動詞です。

——動きと言葉をつなげていくんですね。

今中：この作業は衣装製作にも通じるんです。衣装は毎回、作品ごとに模索しながら手づくりしていますが、今回の衣装には、建築模型や絵画のための下地剤を用いています。これを布につけて乾かすと、腕を揺らす振り付けに合わせて、ザラッとした大きな音が生じるんです。まさに『削る』を連想させる音だねとみんなで盛り上がりました。

——振付だけでなく衣装にも作り込める要素があるなんて驚きました。

外山：創作ダンスの良さって、各部員が自分にできる特技や動きを活かす余地があることだと思うんです。それに、踊りに関わらなくても衣装や音楽、小道具などでアイデアを出す関わり方もある。ほかのジャンルのダンスと大きく異なるには、そこかなと思っています。