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挑戦する横国の学生たち

VENTURE SPIRIT

022

博士課程を通して描く未来。
探求心で自分の道を拓く。

日本で1990年代から進められた大学院改革。しかし依然として課題は多く、先進国では唯一、博士課程後期への進学率が伸び悩んでいるとされます。そんな時代でも、同課程への進学を決意した段野下さんと關根さん。おふたりが見据える「研究の未来」に迫ります。

段野下 宙志 關根 暢秀

理工学府 機械・材料・海洋系工学専攻

段野下 宙志 關根 暢秀

材料工学の魅力は
ものづくりの根底を支えるところ

——現在の専攻に進まれた経緯をお聞かせください

段野下:中学2年のときに起きた東日本大震災の後、人命救助の役に立つものづくり、たとえばレスキューロボットの製作に携わりたいと思うようになりました。この関心から、学部4年次まで在学していた工業高専の専攻は機械工学です。その機械工学科で、材料学を教える先生の説明がとても丁寧で、材料の面白さに惹かれました。材料工学をさらに突き詰めたいと思い、横国の理工学府への進学の際に、専攻を材料工学にしました。

關根:元々ものづくりに興味があり、機械系に進みたいと考えていました。それと同時に、高校の頃は物理が好きでした。「理論も扱いたい」という気持ちも強かったのです。だから、ただ機械を作るというよりは、おおもとの材料に関心が移りました。こうして横国の理工学部、理工学府と進み、一貫して材料工学を専攻しています。

——現在の研究テーマについてお聞かせください

段野下:鉄鋼材料について研究しています。なかでも、車や橋梁に使われる構造材料が対象です。日本刀のように「作り方(熱処理・加工など)」次第で、鉄は硬くも軟らかくもなります。構造物をより軽く、より強くできないか。強度を保ちながら加工しやすい性質はどうすれば得られるか。安全性の確保、コストダウンの実現など、社会生活にも直結する研究です。

關根:傷ついても自己修復するセラミックス(お皿などの陶器類)について研究しています。水拭きするだけで、まるで骨折が治るように傷が元通りになる性質のわかりやすさに魅かれ、テーマに選びました。高分子材料と呼ばれる素材では、スマホの画面フィルムなどで実用化されています。私の研究は、この技術をお皿などの陶器に応用しようとするものです。メンテナンスの必要がなく、長期の使用に耐えうるのですから、サステナビリティに貢献できる夢の技術です。

大切なのは
数学だけじゃない

——おふたりとも数学は苦手だと伺って驚きました。それでもなぜ理工系を志したのでしょう?

關根:中学から数学は苦手でした。でも理科は好きだったんです。数学が不得意でも、研究テーマに強い興味があれば大丈夫。だからみんな諦めないでほしい(笑)。研究目的にもよりますが、私自身はそこまで高度な数学は使っていません。数式を扱う技術よりも「数式を作る」ことが大切だと思います。現象を記述するには問題を解くよりも現象への正しい理解が必要だからです。論理的思考は国語でも養えますし、研究者には文章力も求められるので、意外と国語力が必要だなと最近感じています。

段野下:中学の頃は数学の成績が一番悪かったほどです。工業高専に進むときは、周りの人に「理系に行って大丈夫?」と心配されました(笑)。ただ、決して「嫌い」ではありませんでした。理系科目が得意か不得意かではなく、好きか嫌いかが重要だと思います。苦手ながらも、数学は理工系の研究に必要な「道具」と捉え、不得意を克服するための努力は続けました。

——研究に取り組む中での苦労、そこから得た学びについてはいかがでしょうか

關根:受験勉強と違って、研究には「答え」がありません。研究をしていると、「正解かどうかは分からないけれど、どちらかを選ばなければいけない」という瞬間がたくさんあります。そういった意思決定を積み重ねていくと、すでに道を踏み外しているのかもしれないと不安にもなります。しかし、失敗することでこそ、正解への道が見えてくるものです。「研究結果に真摯に向き合い続け、諦めないことで、必ず次の一歩が拓ける」と心の底から理解できたことは私の財産となっています。

段野下:金属の研究では、金属組織をミクロスケール以下で捉えるために、顕微鏡を使うことが多くあります。熱処理や加工によって多彩に変化する金属組織は「なぜこの金属があのような特性を持つのか」という問いに対するヒントを示してくれています。ただ、そのヒントに気付くにはどうしても知識が必要です。金属組織の「声」が聞けないことで、自分の勉強不足をいつも痛感します。そこを出発点に、必要な知識を新たに身に付け、粘り強く観察を続ける——苦労はありながらも、これが醍醐味です。

不安はある、壁もある
でも夢を追いかけたい

——理工系でさえ、修士課程まで進む学生は多くいても、博士課程となると途端に少なくなるそうですね
そんな中で博士課程への進学を決めた理由をお聞かせください

段野下:学費や就職難といった現実的な壁は確かに存在すると思います。ただ、ひとえに研究が好きだから、というのが進学を決めた理由です。研究成果によっては社会に大きく貢献できるかもしれない。そんな思いが研究を続けるモチベーションとなっています。また、成果を出すまでの過程では、論文作成技法やプレゼン能力、スケジュール管理能力などさまざまな力が磨かれます。好きなこと(=研究)をして、誰かの役に立つことを目指し、さらに自身の能力を高めていける。この感覚が心地よいです。

關根:研究は必ずしも成果に結びつくわけではなく、運に左右される部分も少なくありません。博士課程に進学することに正直不安はありました。ただ、学部生から続けた研究で、ゼロから新しい材料を作り上げ、分析も進みました。そこから新しい仮説が提起できたので、それを自分で証明したいという思いが強くなったのです。わが子をもっと成長させたいという気持ちに近いかもしれません。

——将来のご自身の姿をどのように思い描いていますか?

段野下:指導教員に導いていただいたという自覚があるので、大学の教員に憧れています。そのためにも、学位を取得したら若いうちに海外の研究機関などでさまざまな経験を積むのが当面の目標です。こういった経験を糧に、社会に貢献する研究を続けていければと考えています。いつかは、専門性だけでなくあらゆる能力が磨かれていくことの楽しさを、教育研究を通して伝えられるような存在になりたいです。

關根:「博士課程に進んでも研究職以外の選択肢があっていいのでは」と常々考えてきました。現在は「サンエンスコミュニケーター」と呼ばれる職種に興味があります。教育者やマスコミ関係者など、専門家の取り組みを一般にわかりやすく、魅力的に伝える「通訳」と言えばいいでしょうか。そんな能力を身に付ければ、これからの研究の世界に大きく貢献できると考えています。

掲載:2021年3月

MY MEMORY

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1.実験の様子(段野下) 2.電子顕微鏡で観察した金属組織 3.実験の様子(關根) 4.作製した自己治癒セラミックス(強度試験中)

ものづくりの原点を見つめ直す

ふたりが所属する理工学府機械・材料・海洋系工学専攻の材料工学教育プログラム。基礎科学を応用したものづくりの可能性を追求している。
材料工学教育プログラム

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