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挑戦する横国の学生たち

VENTURE SPIRIT

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建築の領域を超えたアプローチで、
魅力的な「居場所」をつくる。

建築専攻の学業と並行して、音響や映像など、幅広い領域で制作を行っている杉村さん。学内のトイレの設計も手掛け、好評を博しています。それらの活動には共通するのは、「どのように心地よい空間をつくるのか」という問題意識。大学の「居場所づくり」にかける思いを伺いました。

杉村 皓太

都市イノベーション学府 建築都市文化専攻

杉村 皓太

横国には目玉となる建物がない
むしろそこに惹かれた

——建築に興味を持った経緯についてお聞かせください。

高校生の頃、軽音楽部に所属していました。バンド活動に勤しむ中、ライブ運営の際にミキサーなどの音響機器の操作を担当した経験が、進路に大きく影響しています。会場でよりよいサウンドを鳴らすためには、機材やソフトウェアをうまく使いこなすのと併せて、建物がどのような構造になっているかに着目しなければならないことが分かったのです。会場ごとに響きの「個性」がある、といえばいいのでしょうか。それがとても面白く、建築に興味を持つきっかけとなりました。

——横国の建築学科に進学した理由をお聞かせください。

キャンパスを見学した際、東大の安田講堂や早稲田大の大隈記念講堂のようなシンボリックな建物がないところにむしろ興味を引かれました。自然豊かなこの空間なら、自由な校風も相まって、キャンパスデザインの観点から新しく面白いことができそうだと直感したのです。世界トップレベルの教授陣が揃っていることも志望理由のひとつになりました。

ものづくりの手応えを実感した
「仮設建築」のプロジェクト

——学部時代に印象に残っている取り組みを教えてください。

1年次に建築学科の同期とともに、学園祭の出展ブースの場所でテント代わりに設置する「仮設建築」のプロジェクトに携わった経験は、その後の自分の原点になっています。木材や単管パイプといった通常の建築資材ではコストがかさむため、思いついた対処法が竹を使うこと。キャンパス内に自生している竹を刈り取ってまかなえますからね。すり鉢状の野外音楽堂に設置するにあたり、逆の形のアーチ状に設計したり、紙を貼って防水加工を施したりして、建築をつくっていった他に、布を使って空間を構成するなど、ほかのグループのアイデアも取り込みながら設計を詰めていきました。初めての「ものづくり」にワクワクしていたのを覚えています。

——実際に「仮設建築」が完成するまでには、どんな苦労や気づきがありましたか?

竹は一般的に構造部材としては使われないため、特殊な構造計算が求められました。教授に相談しながらモックアップ(=小さなスケールの模型)を作って検証し、「なんとかいけそうだ」と施工に入りましたが、その後も苦労の連続。燃えやすい材料でできているので、火気に留意する必要があり、発電機の置き場所に悩まされたりもしました。トライアンドエラーを繰り返して、ようやく完成にこぎつけたときは感無量。この経験によって、「居場所づくり」への関心が明確になったのも大きな収穫でした。

トイレのイメージを変えたい
利用者目線で社会に貢献する

——都市イノベーション学府に進学し、建築の研究と並行して、学内トイレの設計にも携わったと伺いました。

学内トイレのデザインコンペティションに参加し、表彰されました。トイレはたいへん身近な場所でありながら、衛生面などで負のイメージがあります。ダイバーシティの観点から男女を分けないトイレや、乳幼児連れや車いすの方も使いやすい「みんなのトイレ」も増えてきました。こうした変化が大学にも求められています。そこで、私のコンセプトは、使用する人の属性にとらわれず、「個人」が心地よく、落ち着ける場所にすること。さまざまな制約があるなかで100%自分のイメージ通りにするのは難しかったものの、大学の施設部や施工業者の方と議論を詰めて実現したのが、6メートルほどの高さの吹き抜け構造です。天井や壁の窓から日差しが入り、日中は照明がなくても十分な明るさを保てます。従来のトイレのイメージを少しでも変えることができたかなと考えています。

——そのような個人の活動と研究を両立することで、どんな展望を描いていますか?

学内トイレの設計以外にも、フリーランスの立場で動画制作やパッケージデザインなどを手掛けています。それらの活動で求められるのは、利用者のニーズに応えること。実用を重んじるところが、学問として専門性を突き詰める研究とは大きく異なりますが、個人の活動によって得られた視野の広がりが、研究の助けになっているのは確かです。新型コロナのパンデミックやダイバーシティの浸透など、今はまさに社会の変革期。建築もその影響を受け、変化が求められるでしょう。そこで私はどんな貢献ができるのか。今後も探っていきたいと考えています。

掲載:2023年3月

MY MEMORY

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1.コンペで最優秀賞を受賞後、実施設計を行った理工学部講義棟Aのトイレ(本人撮影)。2.大学からの依頼で作成したYNU価値創造プロセス図、統合報告書に掲載。3.学部1年次に設計・施工を行った仮設建築、学内に自生する竹を利用し安価にしている。4.個人の活動の一環の風景写真、ポートレートやライブ写真の撮影も行っている。

横断的に制作活動を展開。

建築構法・建築生産研究室に在籍するかたわら、フリーランスの立場で、デザイン・写真・映像・音響などの活動を行っている。
591studio

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