挑戦する横国の学生たち
学生がチームを組んで小型レーシングカーを自作し、性能などを競う「学生フォーミュラ」。2019年の日本大会で、横浜国立大学フォーミュラプロジェクト(YNFP)は見事総合2位を獲得しました。チームの一員だった田中さんが振り返る、ものづくりの醍醐味とは。
理工学部数物・電子情報系学科
テレビで鳥人間コンテストやロボコンを見るのが好きで、元々ものづくりに興味がありました。入学後、たまたまYNFPの新歓ポスターを見かけて見学に行くと、小型レーシングカーの現物が展示されていたんです。それを見て「大学生が作っているなんてすごい」と即座に入部を決めました。身に付けたかった技術は溶接です。感覚的に「なんかかっこいいな」と思ったのです。座学の講習を受けた後、先輩に実技を半年ほど教えてもらったら、けっこう向いていたようで、腕を見込まれそのまま溶接のメイン担当を務めることになりました。
同期の1年生は10人ほどで、ひとつ上の先輩は2人だけ。そのため私たちの代は、教えてくれるのを待つのではなく、積極的に動いて学ぶ必要がありました。協力企業様が開催する講習に参加したり、複数の大学による交流会で他大学の学生から話を聞いたり。チームOBの方からもアドバイスをいただくなどして、知識を増やしていきました。1年の冬頃から半年かけて同期でミーティングを重ね、「メンバー全員が成長できることが一番大事」という認識を共有します。その先に学生フォーミュラの総合優勝がある。プロセスと結果、どちらも追求したかったのです。
2年次の初頭から、役割分担やコンセプトの検討が始まります。私はテクニカルディレクターを務めることになりました。設計の方針をまとめ、各班の作業をチェックする立場です。年末までは設計、年明けから製作と進んでいく中、知識も十分ではないのにリーダーとして引っ張っていかなければならないプレッシャーで、心が折れそうになったこともありました。支えてくれた同期やOBには感謝してもしきれません。チームで協力してスポンサーの開拓にも取り組みました。訪問先でプレゼンするのは緊張しましたが、皆さんが「応援しています」と好意的で、勇気づけられました。
1年生で初めてお手伝いしたときから、部品がはまらなかったり、フレームが邪魔して運転席から前が見えなかったりとトラブルの連続でした。私たちの代のチーム「YNFP19」でも、2019年の本番2週間前、栃木での試走会初日にサスペンションのアームが折れてしまいます。大学で待機していた私が急遽作り直し、その日の夜に会場まで届けるという慌ただしさでした。製作は経験が物を言います。「YNFP19」の強みは、1年次から実践を繰り返してきたメンバーの多くがそのまま残っていたこと。私のように溶接を丸2年担当することは稀のようです。そんなチームだったからこそ、多くの困難も切り抜けられました。
当日はやらなければならないことが多く、緊張する暇もないという感じです。初めに車検をパスしないとそこですべてが終わってしまいますが、無事通過して気が楽になりました。デザイン審査は、質疑応答をうまくこなせて、楽しめたと言ってもいいぐらいです。走行レース中は、ただただ祈るように応援していました。例年になく上位常連校で途中リタイアが続出する異例の展開でしたが、私たちのチームはいくつかのトラブルに見舞われながらも無事完走。優勝は逃したものの総合2位というYNFPの歴代タイ記録に、これまでの苦労が報われた思いでした。
ものづくりには明確な正解がありません。試行錯誤する中でトラブルを乗り越えていくしなやかな強さが必要だと感じます。自分一人が頑張ってもやれることは限られていますから、うまく周囲を頼って巻き込んで、チームで前に進む姿勢を学びました。新型コロナの影響で2020年は大会中止、2021年も横国は出場断念し、後輩たちの無念を思うと掛ける言葉が見つかりませんでした。ただ、チームは2022年に向けて、初のEV(電気自動車)参入を表明しました。先輩として経験やノウハウを伝え、彼らの新たなチャレンジをサポートできればと考えています。
掲載:2021年3月1.学内走行 大学内の道路をお借りして試走を行っている様子。2.表彰式での集合写真 総合2位の表彰後にチームメンバーで撮った集合写真。3.溶接の様子 大学内の機械工場にてフレームの溶接を行っている様子。4.東京モーターショーでの展示 2019年の東京モーターショーにて、大会の上位3校が学生フォーミュラブースでの展示を行った際の様子。
ものづくりの総合力で勝負
横浜国立大学フォーミュラプロジェクト(YNFP)は、学生フォーミュラ日本大会への参戦を目的として2003年に発足。アメリカ発祥の同大会は、単にマシンの速さを競うだけでなく、車両のコンセプトからデザイン、コストまでが審査対象となるのが特徴。
YNFP 横浜国立大学フォーミュラプロジェクト team Beaujolais