挑戦する横国の学生たち
2024 年度「未踏IT 人材発掘・育成事業」に採択され、「スーパークリエータ」に認定された九鬼さん。未踏事業での取り組みや今後の展望を伺いました。
環境情報学府 情報環境専攻
九鬼:中学1年のときにコンピューター部に入って、ゲーム制作を始めたのが最初です。そこからプログラミングやシステム開発にのめり込んでいきました。高校時代にシステム開発をする中で、セキュリティ上の弱点に気づくことが増えてきました。システムの隙を突く攻撃者の技術や発想そのものに興味を持ち、サイバーセキュリティ分野を本格的に学びたいと思うようになりました。大学に入学してからは、学部1年の秋学期から理工学部の「ROUTEプロジェクト」を利用して、サイバー攻撃の観測研究を始めました。
九鬼:そうですね。学部3年の2024年2月頃に、経済産業省所管のIPAが実施する未踏事業にエントリーしました。卒業論文と並行しての挑戦でしたが、「このタイミングで思いついてしまったので、出すしかない」と。採択率は約10%と難関ですが、未踏に関わること自体が実績になる点や、PMや同期生など優秀な人たちから刺激を受けられる環境に魅力を感じていました。
九鬼:「ゼロデイ攻撃の対象となるIoT機器を早期特定するシステムの開発」です。IoT機器に脆弱性が見つかると、通常はメーカーがパッチを提供しますが、その前に攻撃されてしまうのがゼロデイ攻撃です。従来の観測手法では、攻撃を受けても標的となった機器の特定に時間がかかるという課題がありました。
九鬼:実際のIoT機器を直接調べるのではなく、メーカーのホームページなどで公開されている「ファームウェア」に着目しました。世界中から約17万件以上のファームウェアを自動で収集・保存し、それらをバーチャル空間で解析し、攻撃と照合する仕組みを構築しました。「少なくとも影響を受ける機器の候補は特定できる」という発想です。開発は基本的に一人で進め、卒業論文と並行して取り組みました。
九鬼:ルーターなどのIoT機器が持つファームウェアの動作を、コンピューター上で本物と同じように再現する点です。エミュレーション環境の精度を高めるのが難しかったですね。そこで、PMであるさくらインターネット代表の田中邦裕さんから助言をいただき、エミュレーションによる動的解析と、実装のコードだけを調べて特徴を見る静的解析を組み合わせることで、精度を向上させました。
九鬼:名誉なことですし、すごく嬉しかったです。ただ、歴代の著名なクリエータの方々と並ぶことになるので、大きな責任も感じました。気が引き締まる思いでしたね。
九鬼:田中PMから「成果をどう見せるかが重要だ」と繰り返し指導を受けました。成果発表では、IoT機器に侵入するデモンストレーションを行うなど、分かりやすく伝える工夫をしました。良いものを作るだけでなく、社会にどう伝え、どう実装していくかが大切だという視点を学びました。
九鬼:現在は大学院で、ハニーポットによる攻撃観測やAIを活用したセキュリティ対策の研究を進めています。開発した技術を企業や警察組織へ情報提供するなど、実社会での活用も行っています。学部生時代には株式会社オプシスを創業し、研究と並行して開発事業にも取り組んできました。今後は博士課程への進学も視野に入れながら、研究とビジネスをうまく両立させ、社会全体のサイバー脅威の低減と安全な情報社会の実現に貢献していきたいと考えています。
掲載:2026年3月
1.「未踏IT人材発掘・育成事業」のブースト会議(キックオフミーティング)で自身の採択プロジェクトについて発表した。2.「未踏IT人材発掘・育成事業」で開発したファームウェアを収集・解析するソフトウェアの概要と活用シナリオを示す図。3.「未踏IT人材発掘・育成事業」修了式/スーパークリエータ認定証授与式にて4.未踏IT人材発掘・育成事業 スーパークリエータ認定証
ROUTE(Research Opportunities for UndergraduaTEs)
理工学部の1年次から最先端の研究に参加できるプロジェクト。多岐にわたる分野で「本物の研究」に触れ、先輩や教授からの手厚いサポートを受けながら試行錯誤を通じて研究の面白さを知り、取り組むことができる。